建築工学科
金子 治
教員紹介
研究紹介
金子 治KANEKO Osamu
工学部 建築工学科 教授
地震が来た!その時、
建物の「土から下の構造」はどんなダメージを受けるか?
PROLOGUE
地震が訪れるたびに、ビルやマンションなどの耐震性に注目が集まります。近年になって建てられた建物は新しい技術や材料が投入されているので、地震で建物自体が壊れ、深刻な被害をもたらす...ということは少なくなりました。しかし、これで建物の地震に対する備えは万全になったかと言えば、そうではありません。「建物が建っている地面の下の基礎構造ではどんなことが起こっているか、よくわかっていません。基礎構造の耐震性は、まだまだ向上させられるはずです」と金子先生は語ります。
基礎構造と地震の関係について、もっと研究を深めるべき
1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災など、何度も大きな地震に見舞われたことを教訓に、建築分野では耐震性の研究に力が入れられました。それにより、建設して数十年も経つ古い建物は別として、地震で建物が倒壊し、人命が失われる悲劇はかなり少なくなりました。建物自体に耐震・制震・免震などの構造を取り入れることで、地震に強くなったからです。
一方、建物を地下で支える基礎構造と地震の関係については、あまり研究が進んでいません。地震で基礎構造や周囲の地盤がダメージを受け、建物が多少傾いても、建物自体が潰れなければ、中に住む人々の生命が損なわれることはありません。だから建築業界も、まず建物自体の耐震性向上に注力してきたのです。
しかし命は助かっても、傾いた建物に引き続き住むことは困難です。もちろん資産価値もほぼゼロになってしまいます。建物に住む人々や建物の所有者にとっては、許容できる話ではないでしょう。地震によるダメージを最小限に抑え、人々の生活や資産を守るため、基礎構造の研究をもっと深める必要があるのです。
現地調査で情報を収集。情報の解析の仕方を考案するところから始める
阪神・淡路大震災や東日本大震災の後、学会や国土交通省主導で行われた現地調査に、私も他の研究者と共に参加しました。そこで、基礎構造の杭は地震によるダメージで使い物にならないけれど、その上に建つビルやマンションは何ともない事例をいくつも発見しました。やはり現地を見て基礎構造の実態をつかまなければ、研究は始まらないと感じたものです。
基礎構造の調査は、地震発生からしばらく経たないとできません。例えば2016年の熊本地震については、最近ようやく基礎を調べ終わったところです。現地調査で情報を収集したら、どのような作用でこれらのダメージが発生したか分析します。とは言え、分析手順が確立していないので、調査結果の解析手法を構築するところから始めます。その結果を受け、基礎構造の設計に関する提言に入っていくのです。ただし地震被害というのは、地震規模や地質、設計の仕方によるので「こういうやり方だと基礎が壊れる」と断定できるケースは多くありません。もっと知見を蓄積しなければ…と痛感します。
人命第一という建築基準法の趣旨に則れば、そこまで基礎構造にこだわる必要はないかもしれません。しかし地震があっても傾かない(=住み続けられ、資産価値が維持できる)というのは、建物を利用する人々にとって大きな安心材料になります。安心できる暮らしに貢献するためにも、力を入れていきたいと思います。
埋立地の多い広島では、地震による液状化が発生しやすい
基礎構造と関連し、地盤の液状化も長く研究しています。地震による液状化は、基礎構造への影響を考える上で、切り離せない要因の一つです。
液状化とは、砂がふわっと積もった地盤で起こります。代表的なのが埋立地です。瀬戸内海に面する広島市には、埋立地がたくさんあります。広島は過去にそれほど大きな地震が発生していません。しかし、南海トラフのような巨大地震が発生すれば、街中に近い部分まで液状化が発生する、と見た方がいいでしょう。地震によって液状化がどこまでの範囲に起こるのか、それを防ぐためには?など、広島に立脚した研究も進めたいと考えています。広島の地盤の大半は「まさ土」で占められています。花崗岩の風化したまさ土はあまり強くなく、地盤改良もしづらいのですが、地震や水害に対する備えという観点でどういうアプローチがあり得るか、ぜひ研究してみたいですね。学生も、地元広島の建築の安全性向上に寄与できる、と思えば、いっそう研究に熱が入るでしょう。
その他、大規模建築物だけでなく戸建住宅の基礎構造も網羅するなど、研究を多面的に展開していきます。