建築工学科
栗﨑 真一郎
教員紹介
研究紹介
栗﨑 真一郎KURISAKI Shinichirou
工学部 建築工学科 教授
少子高齢化・人口減少社会の中で〈少なさ・小ささ〉を見つめなおす
PROLOGUE
少子化や人口減少の影響が、世の中のさまざまなシーンで表れています。その最も顕著な例の一つが「学校」でしょう。1クラスの人数は以前と比べどんどん減っているし、子どもの数が減りすぎて、学校そのものが統廃合されてしまうケースも。一方で、近年のコロナ禍では、人が多いことや集中することがデメリットになることを我々は経験しました。その中で統廃合の危機となっていた小学校は、むしろゆとりある一人当たりの教室の面積等、〈少なさや小ささ〉故に都市の学校に比べて影響が少なかったのではないでしょうか。その結果として、家族ぐるみで地方へ移住するケースも増えてきています。このように、これまでデメリットに捉えられていた〈少なさ・小ささ〉を見つめ直しメリットに転換していくことを、学校を中心に研究しています。
小学校の統廃合を、単純な人数合わせだけで進めて良い?
私の専門は『建築計画』『建築設計』です。『建築計画』とは、建築物が人間の心理や行動、また地域に対して与える影響にまで目を配った上で、建築を考えていく学問のこと。実際の建築設計も行うのですが、その前段階に比重を置いているわけです。
建築計画の観点から私が注目しているのが「学校の統廃合について」。少子化の時代、あちこちで統廃合により学校の数を減らそう、と計画されています。しかし学校、特に小学校の場合「この小学校はこっちに吸収させよう」と単純な数合わせで進めると、さまざまな面で悪影響を及ぼしかねません。
子ども自身はどうでしょう?統廃合によって近くの小学校がなくなると、遠いところまで通わなければなりません。「吸収された」という引け目が、子どもの心理に影を落とす可能性もあります。そして、小学校は地域の「コミュニティーを形成する場」という重要な役割を果たしています。なくなることで、地域社会のつながりが壊れていくかもしれません。学校自体、従来通りのつくり方でよいか?という問題もあります。
私は、少子化時代に合った小学校のあり方・統廃合の進め方を研究しています。
解決策の一つに『小学校のネットワーク化』がある
参考になる事例が広島にあります。広島は離島の多い地域ですが、離島での小学校の統廃合問題は、より深刻です。島に一つしかない小学校がなくなると、子どもたちは毎日、船で通学しないといけなくなるのですから。
そこで複数の小学校や中学校が協力して授業を行い始めました。普段、子どもたちはそれぞれの学校で授業を受けます。そして週1~2回、音楽や体育などの時、複数の学校から1つの学校へ、子どもたちが集まるのです。これなら通学もさほど大変ではありませんし、児童数減少により単独では難しかった授業が行えます。なにより子どもに、他校の児童と触れ合う機会が生まれます。少子化が進み、統廃合せざるを得なくなったときでも、普段から見知っている児童が大勢いる学校に行くなら、子どもの心理的な負担は減るでしょう。言わば『小学校のネットワーク化』。これで統廃合問題が全てうまくいくわけではありませんが、少なくとも数合わせで単純に線引きするより、はるかに良いやり方です。離島だけでなく山間地域や、もちろん都市部の学校でも十分に応用できる方法だと思います。
小学校は地域にとって憩いの場であり、交流の場でもある
統廃合後の学校をどうするか、も見逃せません。小学校は、地域で暮らす人々の憩いの場、情報発信の場でもあります。かつてその学校に通った人もいるでしょう。いろんな思い出がつまった場所を、簡単に壊してよいのでしょうか?
ある学校では、使わなくなったスペースを、児童一人ひとりが自由に使って良い空間として提供しています。そこに子どもたちが自分の描いた絵を飾ったりするのです。絵画を見た先生や児童が「よく描けているね」なんてコメントを残すことも可能。先生や児童、それに保護者のコミュニケーションは、以前より活発になりました。
ゼミの学生が中心になって、近くの中学校で『図書室の改造計画』を行ったこともあります。コンクリートの床は冷たいし本を利用しづらい、と学校から相談を受け、木張りの床を提案。木材業者から床材を提供してもらい、ゼミの院生が工事計画を立て、ゼミ生・中学生・作業員が協力して工事を実施。木の香りがする、温かな床の図書室が完成しました。こうした取り組みも積極的に進めたいですね。
学校を新設する場合、人数が減っても対処できるよう可変スペースを多くするなど、少子化を前提とした設計の研究も進めています。方法は一つではありません。子供たちや地域の人々のため、より良い小学校のあり方を追究したいと考えています。