建築工学科
貞末 和史
教員紹介
研究紹介
貞末 和史SADASUE Kazushi
工学部 建築工学科 教授
震度6クラスの地震に見舞われ,建物が崩壊…。
そんな最悪の事態を防ぐには?
PROLOGUE
2011年の東北地方太平洋沖地震、2016年の熊本地震と震度7を観測する地震が発生しました。地震から人々の生活を守るために、2020年までに住宅および多数の者が利用する建築物の耐震化率を95%まで向上させることが目標として掲げられましたが、未だ達成されていません。「大丈夫、広島にはそんな大きな地震は来ないから」…と、思い込んでいませんか。「南海トラフ」を震源とする巨大地震が発生したら広島も震度6クラスの激しい揺れに見舞われる可能性があります。現在の科学技術では、大きな地震に限っても、いつどこで起こるかは予測できません。地震に備え、建物が壊れないようにしておくことが大事です。「建物は、なぜ地震で壊れるのか?どうすれば壊れないのか?」というテーマに取り組むのが、貞末先生です。
阪神・淡路大震災の経験
「建物は、なぜ壊れるのか?」私がこのテーマに関心を持ったきっかけは、1995年の阪神・淡路大震災です。当時、私は建築について学ぶ大学生でした。地震の多い日本は建築物の耐震性に関する研究が進んでおり、世界最先端だと聞いていました。それでも阪神・淡路大震災では多くの建物が倒壊し、6400人を超える犠牲者が出ました。地震でなぜ建物が壊れるのか?どうすれば壊れないのか?をよく考えて設計する、建築構造の分野について深く学ぶことが大事だと思いました。日本では阪神・淡路大震災以後も各地で大きな地震が起きており、建築に被害があった際には現地に赴き災害調査を行って、この建物はなぜ壊れてしまったのか考え、今後の教訓にしています。
古い時代の耐震基準で造られた建物の耐震性
1980年以前の古い耐震基準のもとで造られた建物は、現在新築される建物に求められる耐震基準に照らし合わせると、耐震性が劣る建物があります。耐震性が劣るからといっても、簡単には建て替えできません。その建物を利用する人がいます。そこで暮らしている家族がいます。私は、古くなった建物でも地震に耐えられるように改修し、「再生」する技術について開発を行っています。考えた新しい耐震補強工法が期待するとおりの耐震性能を持っているのか明確にするために、実験をして確かめます。
製作した建築構造部材を壊して調べる
ゼミでは、高層建築や大型建築に使われる鉄骨やコンクリートを使った構造を主な対象として、地震を受ける建物を想定したシミュレーション(構造解析、構造実験)をしたり、古い時代に建てられた建物の耐震性の調査、地震被害の現地調査などを行って、地震が起きても壊れない建物を造る方法について研究しています。
建物が地震力を受けると、どの部分がどのように変形し破壊するのか調べます。どのように破壊するのかわかった後は、どのように強くする?どのように補強する?といったことを学生と一緒に考えます。考えた方法の良否を検討するために、コンピュータプログラムを使った構造解析や大型加力装置を用いた実験を行います。
学生には、実験実施までの「設計・解析」、「材料手配」、「工程管理」、「製作」、「安全管理」など、実務と同様の緊張感を持って研究に取り組み、実験を行うための構造体の設計と製作を通じて、建築物を造ることがどれだけ大変か、どのような配慮が必要なのかを経験してもらっています。これらの経験は、社会に出た後、すぐに役立つと思います。
大都市には、見上げるばかりの高層ビルが林立しています。あんなに背の高い建物を建てて大丈夫?と思われるかもしれませんね。地震の揺れに建物が共振することで、建物は倒壊しやすくなります。背の高い建物は地震時に比較的ゆっくりと揺れるため、地震の揺れに共振しづらいのです。高層ビルが共振する長い周期の地震動もありますが、地震のエネルギーを吸収する装置を建物に設けるなど、先端の耐震技術によって建物は守られています。
ゼミで培った知識と経験を基に、高層建築を手がけてみたいと意欲を抱いている学生もいます。“こういうものを造りたい”という純粋な思いは、この分野で働く上で、とても大事だと思います。