建築工学科
山田 明
教員紹介
研究紹介
山田 明YAMADA Akira
工学部 建築工学科 准教授
数百年も受け継がれる伝統木造建築物は、
何度も訪れる地震災害に耐えられるか?
PROLOGUE
1995年に発生した阪神・淡路大震災。高速道路は横倒しになり、ビルは倒壊し、街が火災に包まれる様子をニュースで見て衝撃を受けた人も多いと思います。山田先生もその一人。「高校生だった私は伊丹市に住んでおり、木造住宅がぐしゃぐしゃにつぶれているのを目の当たりました」。この体験をきっかけに、耐震工学の道を歩むことになったのです。中でも先生が着目するのは、第二次世界大戦以前に建てられた、町家・長屋などの文化財に指定されるような伝統的木造建築の耐震安全性です。
伝統的な木造建築物には、地震のダメージが蓄積されているかもしれない
震災により多くの木造建築物が倒壊したことから、震災後、木造建築物に対する耐震設計基準が大きく見直されました。特に戦前型の古い木造建築物、地域の文化財に指定されるような町家や長屋を維持管理するため、法的枠組みや技術面の整備がされてきました。そのおかげで、古い木造建築の土壁などは、従来なら「耐震性がない」という評価でしたが、設計法の見直しにより耐震改修の機運が高まりました。
しかし、新たな課題も発生しています。現行の耐震設計には、数百年に1度発生すると言われる「大地震」と、数十年に1度発生するとされる「中地震」の2段階があります。「大地震」に対しては、建物が損傷しても人命を確保できること、「中地震」の場合は建物も無傷であることを考えて設計するのです。一般の建築物は、数十年経てば建て替えるのが普通なので、それで問題ないでしょう。
でも、文化財のような建築物はどうでしょう。完成から100年以上が過ぎ、以後数百年も維持管理したいと考えられる建築物は、少なくとも数回の中地震、あるいは大地震を受けることになります。1度の地震なら問題なくても、2度、3度と続いた場合、耐えられるのでしょうか?
耐震改修で新品同様になったとしても、強度まで回復するか?
地震があっても、問題が少なければ修復工事は実施されません。しかし、建物の構造には目に見えないダメージが残ることも考えられます。2度、3度と地震が続けば、蓄積されたダメージが深刻な事態をもたらすかもしれません。伝統的木造建築を長く維持するには、1度の地震によって受けるダメージを定量化する必要があるのではないでしょうか。
関連して、「文化財や伝統的木造建築を補修した場合、耐震性の強度はどこまで回復するか」という課題にも取り組んでいます。伝統的木造建築の補修は、意外と容易にできます。土壁は木づちで叩き落として新たに塗り直せば新品同様になるので、一般建築物よりも簡単です。
ただし、新品同様だからといって強度まで新築レベルに回復するでしょうか?100%強度が戻るという考え方に、私は疑問を抱いています。実際、中地震・大地震を受けたと想定される壁を用意し、修復してもらった上で強度を測ったところ、新品の8割程度という結果でした。
補修により強度がどれだけ回復するかを明確にするためには、実験と検証を重ねる必要があると思います。回復度が定量的に解明できれば、補修計画も立てやすくなるはずです。
常時微動計測を活用し、耐震診断の信頼性を高める
もう一つ、文化財の耐震診断や耐震補強設計に、常時微動計測を活用する、というテーマも進めています。
文化財の調査できる範囲は非常に限られます。文化財の場合、天井や壁をはがして内部を確認したりできません。わからない部分は「恐らくこうなっているだろう」という仮定を基に計算し、耐震診断を行うわけです。しかし仮定ですので、正しいとは限りません。耐震補強工事の段階で仮定と実情が大きく異なるケースもあり、設計からやり直しになってしまいます。
そこで、常時微動計測を使います。建物は、地震がなくても常に僅かに揺れています。建物特有の微動を測定すると「建物がややねじれている」「床がやわらかい」などがわかり、耐震性の判断材料としても用いられています。
ならば、文化財の耐震診断を行う際に用いた仮定や計算が正しいかどうか、答え合わせする手段としても使えるはず。建物を傷つけることもありませんし、構造がシンプルな文化財にはもってこいです。構造設計の観点から常時微動計測データの分析を深め、文化財の耐震診断の信頼性を高めたいと考えています。
文化財は、地域にとって重要な財産です。しっかり維持管理し、その価値を守るのに貢献したいですね。