環境土木工学科
今川 朱美
教員紹介
プロフィール
- 【専門分野】
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○シビックデザイン
○都市地域計画
- 【担当科目】
- 都市計画 、 空間創造設計 、 空間創造実習 、 景観工学 、 ジビックデザイン など
- 【研究テーマ】
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1.持続可能社会と環境共生地域づくりについて
2.美しいまち(都市デザイン)について
3.愛されるまち(コミュニティ)について
4.理想都市(ユートピア)について
5.社会的弱者に対する都市計画からの対策について
- 【ひとこと】
小説家の山本有三は、『路傍の石』の中に、「たったひとりしかいない自分を、たった一度しかない一生を、本当に生かさなかったら、人間生まれてきたかいがないじゃないか」という心に響く言葉を残しました。生き方を迷ったときには、本に向かってみてください。自分を見つけるきっかけとなる一節に出会えると思います。
研究紹介
今川 朱美IMAGAWA Akemi
工学部 環境土木工学科 准教授
バス停が遠くて街に出られない。
過疎地のそんな“ラストワンマイル”問題を解決
PROLOGUE
広島の中山間地域にぽつりぽつりと暮らす、高齢の方々。そうした人々が、日用品を買うなどの用事で街に出ようと思ったとき、困るのが「生活の足」です。自分で車の運転はもうしていないし、バスは走っているけれど、自宅からバス停までが遠く、そこに行くのも一苦労。この中山間地域の「ラストワンマイル」問題を解決しようと研究しているのが今川先生。先生は、地域に暮らす人々の誰もが豊かさや快適さを感じられる、理想的な都市計画・地域計画のあり方を追究しています。
小型電動自動車「グリーンスローモビリティ」が過疎地の高齢者の“足”になる
住民数が少なく、道幅の狭い中山間地域では、路線バスもそれほど走らせることができません。私たちは廿日市浅原地区で調査をしたのですが、自宅から最寄りバス停まで徒歩で1時間もかかる高齢の方もおられます。
この路線バスの停留所から自宅までのラストワンマイルを解決したいと考え、着目したのが「グリーンスローモビリティ」という、ゴルフカートのような4人乗りの電動自動車です。グリスロをバス停から高齢者の自宅近くまで走らせれば、だいぶ楽になります。実証調査では、運転者は学生が務め、最大3人までしか乗れませんが、過疎地なのでキャパは十分です。
まず浅原地区の住民に腕時計型のGPSロガーをつけてもらい、居住者の行動・移動を計測します。いつ頃、どこまでの移動ニーズが発生するかを確認した上で、3コースを設定し、グリスロの定期便を走らせました。
すると大変喜ばれたのです。「安心して街まで出られる」「地域のちょっとしたイベントに初めて参加できた」と、いろんな方にグリスロの価値を実感していただけました。
この次世代モビリティーを、中山間地域の交通の足として活用する実証実験を大学が行ったのは、全国で2例目。その成果に各方面から注目が集まりました。
学生が地域に入ることで、地域が活性化した
高齢者が移動する際、従来はデマンドタクシーに近所の方々と乗り合っていました。しかしデマンドタクシーは、前日までの事前予約が必要です。高齢なので、当日になって急に体調を崩すこともあります。それでもせっかく頼んだタクシーなので、無理して利用し、かえって体調を悪化させたこともあったそうです。その点、グリスロは定期便なので、特にストレスはありません。
学生が運転手として地区に頻繁に入るようになり、高齢者の雰囲気も変わりました。ちょっとした化粧をして身ぎれいにして、明らかにイキイキとし始めて。やはり若者との交流は、地域活性化の大事な要因になると実感しました。
グリスロ実証実験の反響は大きく「うちの地域でもお願いしたい」という声をたくさん頂いています。グリスロはメーカーからの借り物で使用が難しいことをお伝えすると、「高齢者行動調査だけでもいいから」と依頼をいただきます。中山間地域におけるニーズの大きさを実感しますね。いずれはグリスロ実験も再開したいと考えています。
その先に見据えるのは「自動運転」です。低速で、狭い道も入り込むグリスロの自動運転が実現すれば、低コストで運用できる便利な地域の足になってくれるでしょう。
基町環境護岸は、サッカースタジアムの建設でどう変わるか?
中央公園内で建設が進むサッカースタジアムの西側、基町環境護岸の空間的な使われ方の分析も行っています。基町環境護岸はバーベキューなどに頻繁に利用されていますが、なぜあの場所に人々が集まるのか、周辺施設との関係も見ながら調べようというわけです。その空間が、スタジアムの完成によってどう変わるのか。長期的に見ていきます。
一方「使われない河川敷」もあります。広島駅南側の猿猴川河川敷などは多くの人が行き交うのに、有効な利用がされていません。どう工夫すれば人々が利用しやすくなるか考えていきたいと思います。
他には、厳島図絵という、江戸時代の「旅行情報誌」のようなものを入手して、宮島の景観研究も進めています。図絵を丹念に調べると、宮島は100年以上前から、今と変わらず人々から愛されている地域であることがわかります。これを起点に、宮島になお残る独特の建築や町家について考察する学生もいます。
さらに、安全なまちづくりというテーマで、防犯に関する研究にも着手しています。例えば小学校が標高の高い位置に存在すると、その地域では犯罪が少なくなる傾向があることや、道路幅員と犯罪発生数の関係などが、見えてきました。
地域づくり・都市計画を多面的にとらえ、豊かな暮らしづくりに役立てていきたいですね。