電気システム工学科
板井 志郎
教員紹介
プロフィール
- 【専門分野】
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○ヒューマンインタフェース
○介護ロボット
- 【担当科目】
- プログラム実践基礎・応用 、 AI・データサイエンス入門
- 【研究テーマ】
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1.介護施設におけるロボットセラピー・レクリエーションシステムの研究開発
2.ロボットを活用した言語リハビリシステムに関する研究開発
3.接待型AIエージェントに関する研究開発
- 【ひとこと】
大学での幅広い分野の授業や研究活動などを通して、ものごとの本質を捉え、新たなシステムを設計・開発できるエンジニアをめざしましょう。
研究紹介
板井 志郎ITAI Shiroh
工学部 電気システム工学科 准教授
介護現場のレクレーションに、
ロボットが盛り上げ役として参加する?
PROLOGUE
認知症などにより、特別養護老人ホームやグループホームといった介護施設を利用する高齢者は増えています。一方、介護施設は慢性的なスタッフ不足に悩んでおり、少人数のスタッフがいくつもの仕事を兼務する、という問題を抱えています。こうした問題の解決に、ロボットを利用しようと考えているのが板井先生。「と言っても、高齢者の体を持ち上げるような介護ロボットではありません。私が関心を持っているのは、ロボットによるコミュニケーションの活性化です」と先生は語ります。
ロボットを利用し、認知症の方のコミュニケーションを活性化させる
認知症を発症する方は増えていますが、要因として指摘されるのが「コミュニケーション量の低下」です。誰かと会話したり、笑い合うといった刺激が少なくなると、認知症は進行します。しかし、そもそもコミュニケーションに対する意欲の低い人と会話するのは難しく、現場の介護スタッフも頭を悩ませています。
そこでロボットを使ってはどうかと考えました。動物のような仕草をするペットロボットや、少し話せる会話ロボットを、施設内で定期的に行われるレクレーションの時間に登場させるのです。ペットロボットにカゴを背負わせて自由に動かし、高齢者にボールを持たせてカゴに入れてもらい、得点を競ってもらってもいいでしょう。会話ロボットには、レクの司会をさせてもいいかもしれません。
認知症の方はあまりコミュニケーションをとりたがらないため、レクをやっても司会者一人で奮闘してすごくしんどい、ということが往々にしてあります。そこでロボットが登場し、ギャグを言ったり失敗したりすると、レクが盛り上がるのです。そういったピエロのような役割をロボットにやらせると、レクのマンネリ打破にもつながるのではないかと思います。
全てロボット任せではうまくいかない。介護現場の要望を聞くことが大事
では、ロボットを全自動で動くようにして、全て任せてしまえばいいのか?そう単純ではありません。介護スタッフにとってレクは、高齢者の方々の個性を見るチャンスでもあります。普段は無反応だけど、レクの場では楽しそうだった場合、日常の介助でもその時の話をすると、コミュニケーションが成立するかもしれません。全部ロボット任せにすると、そういった機会が失われてしまいます。
そこでまず介護現場の要望を聞き、ロボットがレクにどう関わるか調整します。ロボットの自律的な動きでは、高齢者が「お手」と言ってもお手を返さない場合もあります。そのようなときに、介護スタッフが遠隔操作でボタンを押すと、きちんとお手やハイタッチをしたり「こういう風に言ってほしい」というスタッフの望んだ言葉をロボットが返す、といった調整が必要です。
全て操作するのは大変だし、介護の現場には電子機器に慣れていない人も多いので、自律的な動きと遠隔操作を状況に応じて切り替えできるようにした方がいいでしょう。ボタンを単純化して操作しやすくするインタフェースの工夫も必要です。介護スタッフの声に応じ、システムにカスタマイズを加えていかなければいけません。
人の意図を先読みするシステムについても研究中
これと別に、人の意図を予測してシステムやインタフェースに組み込む研究も行っています。剣道などでは、熟練者ほどすぐに相手に打ち込まず、間合いを測りながら前進しますよね。そしてある瞬間、素早く攻撃に出ます。間合いを測る時も、攻撃に移る時も、「前進」動作に違いはありませんが、意図は全く違います。その意図を先読みできないか、と考えているのです。AIは将棋で人間を打ち負かしますが、あれは局面を見て勝率の高い手を選択しているだけで、意図を読むわけではありません。
この知見は、介護ロボットにも活かせます。人間の意図を先読みしてロボットが動けば、人間の指示や操作は最低限で済むはずです。介護スタッフは安心してレクの進行をロボットに委ねながら、高齢者の反応を観察し、日常の介助に活かすといったことができるでしょう。
「ロボットを使ったレクで、普段わからない高齢者の特徴に気づいた」「今日はロボットが体操したおかげで、みんな体操に参加してくれた」といった声を聞くと、嬉しくなりますね。決して簡単ではありませんが、今後も介護現場の声を聞き、介護の質の向上に寄与していきたいと思います。