電気システム工学科
吉田 憲司
教員紹介
プロフィール
- 【専門分野】
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○燃焼工学
○熱流動工学
- 【担当科目】
- 熱力学A/B 、 伝熱工学 、 エネルギー変換 、 機械工学実験(伝熱工学) 、 流力・熱力演習 、 実践基礎A/C 、 キャリアデザイン演習B
- 【研究テーマ】
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1.予混合圧縮自己着火燃焼、ノッキング現象の解析的研究
2.細管内気液二相流の流動特性に関する研究
3.水蒸気の直接接触凝縮現象に関する研究
4.着霜・除霜現象に関する研究
- 【ひとこと】
大学では自分自身をじっくりと見つめ、自分探しをしてほしいと思います。その上で夢を実現するため、目的意識を持って学修・研究に向き合ってほしい。行動するのは自分です。我々はその手助けは惜しみません。
研究紹介
吉田 憲司YOSHIDA Kenji
工学部 電気システム工学科 教授
わずか0.00001秒で摂氏3,000度に達するエンジン内では、
何が起こっているか?
PROLOGUE
エンジンは自動車にとって重要な機関の一つですが、そのエンジン内燃焼については、わからないことがたくさんあります。エンジン内部で燃料が燃焼する際、数百種類の化学種による数千もの化学反応が起こっている、と言われます。10のマイナス5乗秒というわずかな時間の中で、温度は3,000℃、数百気圧にも達するほどの劇的な変化を明らかにすることは、簡単ではないのです。その難しい課題に挑戦するのが吉田先生。先生は数値シミュレーションでエンジン内燃焼の謎を解こうとしています。
夢の燃焼方式の実現に寄与したい
自動車のエンジンにとって「燃費向上」「排出ガス削減」は大きな課題です。ディーゼルエンジンについて言うと、燃費はガソリンエンジンよりいいのですが、すすや窒素酸化物を発生させやすいという欠点を持っています。
これは「燃焼室内の空気を圧縮し、そこへ燃料を噴射して自己発火させる」仕組みに起因するもの。燃料の噴射ポイントから燃焼が「徐々に」広がるため、局所的に不完全燃焼を起こしてすすが大量に出ます。すすを抑えるため燃焼温度を上げると、今度は窒素酸化物が発生しやすくなります。
これを燃焼レベルで解決するとして期待されているのがHCCI(予混合圧縮自己着火燃焼)です。HCCIでは、空気と燃料を予め均一に混合して自己着火させます。すると燃焼が室内全域で均一に進むため不完全燃焼が発生せず、すすが出にくくなります。また燃焼が空間に分散するので局所的に温度が上がらず、窒素酸化物も抑えられます。さらに燃料の節約(=燃費向上)にもつながるのです。
しかし実用化には高いハードルがあります。着火タイミングが化学反応任せで制御が難しいのです。また一気の燃焼で燃焼室内の圧力が急激に上がり、騒音を発生させたり機器を損傷させることもあります。
エンジン内燃焼の全てをシミュレートするのは難しい
エンジン内燃焼については多くのメーカーや機関が研究を進めていますが、高温・高圧のため現象の詳細を実験でとらえるのは極めて困難です。そこでシミュレーションが用いられますが、エンジン内燃焼全てを完全にシミュレートするのは、現代のスパコンを持ってしても不可能。それほど複雑な現象なのです。
そこで、予混合燃焼におけるノッキングに焦点をあて、状況をシミュレートしてみました。燃焼室内に燃料と空気の混ざった混合気を入れ、室内の左から着火。すると、火炎は左側から順に伝播するのですが、あるタイミングに来ると、順番をすっ飛ばして空間内全てが燃え上がってしまいました。予混合気が火炎伝播により燃焼したことで体積が膨張し、圧力・温度とも上昇し、まだ燃焼していなかった予混合気が勝手に自己着火条件に到達してしまったことが原因です。未燃予混合気が一気に燃焼したことで起こった圧力波が室内の壁を叩き、いわゆるノッキングが発生しました。
ノッキングは昔から知られる現象です。各メーカーは経験則でノッキングを抑えていました。しかし原因や条件がわかれば、より効果的に解決できるでしょう。
「気液二相流」についても研究を進める
「気液二相流」にも取り組んでいます。沸騰した水は、水と水蒸気、すなわち液体と気体の二相が一緒になって流れます。この液相と気相の接触する界面では、沸騰や凝縮と呼ばれる相変化が生じたり、気液界面の形状が複雑に変化したりといった多様な現象が起こります。この現象を明らかにするのです。
気液二相流は、やかんでお湯を沸かしたり、お風呂でシャワーを流したりするときに目にする流れです。ボイラ、原子力発電といったエネルギー関連機器、またエアコンやヒートポンプといった環境・空調関連機器など、生活や産業を支える機器に多く利用されています。
酸素と水素の化学反応から水と電気を生成し、モーターを動作させる燃料電池自動車にも気液二相流の問題があります。細い配管の中を、気体の水素・酸素と液体の水が同時に流れる際、水の表面張力で配管が詰まり、発電を阻害する場合があるのです。これらの機器の高度化・高性能化、安全確保のため、気液二相流の研究は欠かせません。
数値解析などあらゆる手法を利用し、さまざまな課題を解決するのに役立つ知見を蓄積したいと思います。