電子情報工学科
荒木 智行
教員紹介
プロフィール
- 【専門分野】
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○非古典論理学(多値論理、ファジィ論理)の基礎と応用
○計算機科学
○情報セキュリティ
- 【担当科目】
- 情報システム(大学院) 、 符号と暗号 、 ネットワーク工学 、 情報システム設計 、 データベース 、 オブジェクト指向言語 、 プログラミングII
- 【研究テーマ】
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1.スケーラブル量子コンピューティングに関する基礎研究
2.スケーラブル量子コンピューターのシステムズ・エンジニアリング
3.高いセキュリティを維持できるSoftware Defined Network(SDN)
4.ユビキタス技術、IoT技術に基づく高齢者・障害者支援アプリケーションの研究
- 【ひとこと】
今でも思います。高校までに習った数学と大学に入って習った線形代数と微積分には助けられていると。また中学・高校で習った英語には、日々助けられています。私は大学を卒業後、コンピュータメーカーに就職しました。そこで一番に思ったのは、正しい日本語で物事を考えることの必要性です。私の就職した会社は外資系でしたから、会議のメンバーに外人が入ると全員が英語で議論します。「最初から英語でものを考える」などということは、なかなかできません。日本人の思考は母国語である日本語で「論理」を組み込みます。正しい論理を身につけることはとても重要です。大学での専門科目は、当然、重要です。それらの勉強の中で数学、英語、そして思考言語としての日本語をブラッシュアップしてください。そのためにも学会などで発表する機会を利用してください。
研究紹介
荒木 智行ARAKI Tomoyuki
工学部 電子情報工学科 教授
圧倒的な処理能力を誇る量子コンピュータ。
しかし実用化には多くの課題がある
PROLOGUE
「量子コンピュータ」という言葉を耳にする機会が増えてきました。スーパーコンピュータなどの従来型コンピュータ(「古典コンピュータ」とも言います)と比べ、特別な条件を持つ問題に対しては、圧倒的な高速計算が可能。量子コンピュータによりAIはもっと賢くなり、車の自動運転が実現し、医療もITも、社会全体が劇的に進化する、とも言われます。しかし、まだまだわからないことが多いのも事実。そこで荒木先生は、量子コンピュータについて、どういったことができるか、どんな技術の実装が必要か、研究を重ねています。
車の自動運転の実現には、量子コンピュータを活用したシステムが必要になる
車の自動運転の実現に欠かせないのが、交通ネットワークで発生する複雑な問題を、リアルタイムで最適化するシステムです。車線変更、歩行者の飛び出し、ドライバーの急な体調不良…など、道路上にはいろんなリスクがあります。これらの事態に対処するには、道路上の車全てがネットワークにつながって情報共有しながら、個々の状況に応じた制御を、リアルタイムで行わなければなりません。「計算に10秒かかった」では、もう事故が発生してしまいます。
こういった、車の自動運転に代表される「組み合わせ最適化」を得意とするのが、量子コンピュータの特徴の一つと言われます。従来型コンピュータは、1つの電子ビットで0と1のどちらかを選択する仕組みなので、選択肢が増えるほど計算回数が指数関数的に拡大します。仮に選択肢が20あると、2の20乗で100万回以上計算しないと答えが出ません。
しかし量子コンピュータは「重ね合わせ」により、1量子ビットの中に0と1の両方を同時に存在させたり、量子ビットを相関させる「量子もつれ」という性質があります。また不要な重ね合わせが生じたときには、それを後から「計算しなかった」ことにもできます。これらの性質を利用することで、選択肢の数がどれだけ増えても、瞬時に計算が完了するのです。
厳正な管理と的確なアルゴリズムがないと、量子コンピュータは能力を発揮できない
自動運転を始め、物流の経路選択、創薬・新素材開発の際の分子構造決定、金融でのリスク管理・将来予測、そしてAI・機械学習など。量子コンピュータは、さまざまな分野における計算の高速化と省エネ化に貢献すると期待されています。
しかし、量子コンピュータが従来型を全て置き換えるわけではありません。現在のところ、量子コンピュータが活躍するのは、「組み合わせ最適化」の中の特定分野に限られるとされています。条件を整え、的確なアルゴリズムを用意しなければ、機能を発揮できないからです。
ノイズの問題もあります。量子コンピュータでは、ゲートと呼ばれるものを量子ビットに作用させて計算するのですが、ゲートを通過するほど(時間が経過するほど)ノイズが入って計算に影響を及ぼします。ノイズを抑えるには、量子コンピュータを極低温の環境に設置するなどが必要なります。このように管理の難しいハードウェアを、家庭やオフィスには置けないでしょう。
これらを考えると、量子コンピュータはクラウド上で運用し、一般の人々はネットワークを介して従来型デバイスでその結果を利用する、というハイブリッドな形になるのではないでしょうか。
量子コンピュータ実用化のため、さまざまな研究に取り組む
量子コンピュータは、インターネットで標準的に使われている暗号方式(RSA暗号式、DH鍵共有等)の公開鍵から秘密鍵を短時間に発見できる、と言われます。そのため、量子コンピュータが登場してもセキュリティーを担保できる暗号の開発が、世界中で行われています。
量子コンピュータが暗号を解いてしまうということは、クラウドに存在する量子コンピュータに機密データを渡した場合、機密性の維持が保証できない、ということにつながります。セキュリティー上の新たな問題が発生してしまうのです。
私たちは、量子コンピュータの実用化に貢献するため、さまざまな角度から研究しています。機密データを機密のままで量子コンピュータに計算させる秘密計算の仕組みや、ゲート数を少なくしてノイズを抑え、誤りを訂正する理論の構築。あるいは従来型コンピュータによる量子コンピュータの計算結果を検証するソフトウェア作成、量子コンピュータに解読されない暗号の開発など。テーマは多岐にわたります。
そういう分野だからこそ、取り組みがいがあると感じています。