電子情報工学科
山内 将行
教員紹介
プロフィール
- 【専門分野】
- ○非線形回路工学
- 【担当科目】
- 基礎電気回路II 、 電気回路理論 、 微分方程式 、 社会実践 など
- 【研究テーマ】
-
1.発振器の結合系にみられる同期現象の解析
2.発振器の結合系にみられる波動現象の解析と解析手法の開発
3.発振器の結合系を用いた時系列データの合成
4.プリンテッド・スパイラル・インダクタを用いたセンシングデバイスの開発
5.プリンテッド・スパイラル・インダクタを用いたシステムの開発
6.プリンテッド・スパイラル・インダクタの自己インダクタンスを求めるシミュレータの開発
7.複数のプリンテッド・スパイラル・インダクタ間の相互ンダクタンスを求めるシミュレータの開発
8.動的なクラシフィケーションアルゴリズムを用いたクラスタリングアルゴリズムの開発
- 【ひとこと】
大学時代は、社会に出て働く前の最後のさまざまなことにチャレンジできる時代であると思います。卒業までに、さまざまなことにチャレンジし、一つで良いので人に誇れる分野を持てるよう、頑張ってください。
研究紹介
山内 将行YAMAUCHI Masayuki
工学部 電子情報工学科 教授
「同期」現象を正しく解析すれば、さまざまな分野で活用できて
未来予測なども可能になる?
PROLOGUE
「同期」という現象を知っていますか?例えば東南アジアのホタルの群れは、一斉に、同じ間隔で光の点滅を繰り返します。また魚が大群で泳ぐ時、同時に同じ方角に曲がったりします。これらが「同期」です。実は人間の体内でもあり、我々はこの現象を使って生きています。例えば心臓です。心臓を動かす信号を出すペースメーカー細胞の集まった組織があります。この細胞群が心臓を動かす一定のパターンの信号を同期して発生すると言われており、その信号に心臓の各心室と心房が順次同期して、全体として心臓がその役割を果たします。自然でよく見られるこの同期現象を、産業でもっと利用したいと考え研究しているのが、山内先生です。
非線形現象は「安定部分」と「不安定部分」の境目を見つけるのが難しい
ホタルでも魚でも人間でも、本来個別に動くものが、なぜ一斉に同期し合うのか。いろんな分野の学者が研究していますが、多くのもので理由が明らかになっていません。
同期現象は、私の専門である電子回路上でも見られます。うまく利用すると、天気や株価など、複雑でカオティックな動きをするものの予測ができるかもしれません。工業的にもすでに通信システムや電力システムなどで同期現象は利用されていますが、その他にもまだまだたくさん活かせる分野があると考えられます。そのためには、同期現象を正しく解析する手法が求められます。どれほど可能性の高い現象でも、安定かどうか明らかにできないものは産業で使う事は難しいです。私は現在、連動して変動し続ける同期現象や、発振器をドーナツのような形(トーラス状)に結合したシステムみられる同期現象について学生らとともに、理論的な解析手法の確立に取り組んでいます。
発振器を梯子状や環状、格子状や十字の形につないで一部にノイズを入れると、ユニークな波動現象が起こります。しかし複雑な非線形現象なので、理論的に解析ができません。そこで、実際の回路実験とシミュレーションを利用して解析しようとしています。
素子の大きさや初期値によっては、カオティックで無秩序な部分と、正弦波のようなきれいな部分が混在して存在することがあります。カオティックな現象は複雑な動きをするため、それを積極的に利用しようとしない限り利用が難しいと言えます。しかし、正弦波がみられるなら、産業に利用しやすそうです。となると、どこまでが複雑な現象となり、どこからが安定してシンプルな現象となるか、境界線を引いてやらないといけません。
これがなかなか難しいのです。解析手法を考え、絞り込む段階で、実際に適用してみると「こっちの方がいい」だけでなく、「違う現象がみえてきた」と、逆に選択肢が増えてしまったりするケースもあります。こういう解析手法があり得る、という発表は行いましたが、まだまだゴールに到達したという段階ではありません。もっと精度を高め、多くの可能性を考え調査していかないといけないですね。
2枚のコイルを用いると、回転角度や距離が非接触で測定できる
もう一つ、コイルを使ったテーマもあります。コイルは同期現象を研究する上で重要な素子ですが、それ以外でも、信号処理や電力回路などいろんな分野で利用されており、我々もさらなる応用を模索しています。
ゼミでは、平面状のスパイラルコイルでさまざまな形のものを作成していますが、一番細かいもので、線幅・線間とも25マイクロメートルという、微細なスパイラルコイルを実作しています。プリント基板上に作成し、それ自体を素子として利用するので、プリンテッド・スパイラル・インダクタ、略してPSIと呼んでいます。実はこれ、学生がコンピュータで設計し、ゼミにある加工機で製作したものなのです。
このPSIを2枚使うと、いろんなことができます。距離を計測したり、回転角度や交角を測れるのです。
2枚のPSIをピッタリ重ね合わせると、一方のPSIからもう一方のPSIに磁界が通り抜けて相互インダクタンスを利用できる状態になります。しかし少しでもずれると、相互インダクタンスの大きさが急速に変化します。この変化し具合から、PSI同士の回転角度や交角がわかるのです。またPSI同士を垂直に離すとやはり相互インダクタンスが変化するため、距離が測定できます。
同期現象には、宇宙の神秘が隠されている
PSIをネジ山に埋め込めば、ネジの締め・緩みの具合が自動計測できます。交角計測を利用すればドアが開いているかどうかわかるので、セキュリティーにも使えそうです。
しかもPSI同士は、非接触で機能します。摩耗がなく、耐久性が高いわけです。電力は必要でも、計測する頻度にもよりますが、電池で比較的長い期間もつと考えられるので、設置後のメンテナンスがあまりいらないと言えます。さらに、基板に模様を描くだけなので、コストも非常に安くあがると言えます。また、PSIを用いて発振器を作成し、同期を利用すれば、さらに計測精度やノイズ耐性が上がる可能性があります。
現在も、曲がるPSIなども製作しつつあり、新しい素子の開発にも挑戦し続けています。
自然界の同期現象は数学、物理学、⽣物学、医学、天⽂学などの分野からもアプローチされている、奥の深い現象。そういう意味では「宇宙の神秘が隠されている」と⾔っても過言ではありません。単純な計算式が通用しないアナログな世界で難しいですが、新しい現象を発見すれば、その瞬間、その現象は世界で自分だけが知っている現象となります。そんな現象がまだまだ残っている可能性があると考えています。だからこそ⾯⽩いですよ。