建築デザイン学科
鈴木 浩史
教員紹介
プロフィール
- 【専門分野】
- ○建築設計
- 【担当科目】
- 住居デザイン実習B
- 【研究テーマ】
- 1.建築と設計の総合的なあり方についての研究(人・社会背景の視点、地域・時代とともに醸成される建築の個性の視点、技術的な構築者としての設計の視点)
- 【ひとこと】
社会に出て人間的な建築と環境を作り出していくために、建築設計の基本的な知識や教養を修得してほしいと思っています。建築が自然とともに地球環境の一部として見られる今日、大学での学びが、社会でそれぞれが置かれた場所で生じている問題に広く共感し、学んだことを糧にして、創意工夫していく基礎となってほしいと思います。
研究紹介
鈴木 浩史SUZUKI Koshi
環境学部 建築デザイン学科 教授
建築プロジェクトを進めるのに必要なのは、
時代や社会に対する視野の広さ
PROLOGUE
街のど真ん中に大きなサッカースタジアムができる!なんて話を聞くと、中には「いつかそんな建物を、自分で設計してみたいなあ」なんて夢想する人もいるのでは?もちろん社会に出て建築の経験を積めば、いずれは夢が叶う時も来るでしょう。ただし勘違いしてほしくないのは、自分一人の力だけで大規模な建築物は造れない、ということ。「建築物に関わる人々の声を聞き、社会や時代の背景も考察するなど、広い視点がなければ、プロジェクトを前に進めることはできません」と鈴木先生は言います。
鹿島建設本社ビルなど、様々なオフィスビル・官公庁舎の建築に関わる
大学院を卒業後、私は社会に出て、多くの建築物の設計・監理に携わりました。40歳過ぎに大手ゼネコンの鹿島建設に転職してからは、オフィスビルや官公庁向けの庁舎など「ビルもの」を担当。鹿島建設の本社ビルも、私が取り組んだ建築物の一つです。
「取り組んだ」と言っても、それは「自分一人の力で成し得た」という意味では決してありません。ビルでも庁舎でも、建築には多くの人が関わります。規模が大きくなるほど、利害関係者は増えるものです。そうした人々と力を合わせなければ、建築物は形にならないのです。
ある土地にビルを建築する際に土地の持主が複数いる場合、再開発組合が組まれます。組合は建築のプロではないため、専門家である不動産会社がデベロッパーとして入ります。ビルを建築するゼネコン会社はデベロッパーと話を詰めるのですが、背後にいる再開発組合の人々の声が大切です。また案件によっては、行政がビルの区分所有者として加わるケースもあります。そうなると、多様な角度からチェックが入ります。行政は市民の税金を預かってビル開発などの事業を行うわけですから、チェックが厳しくなるのは当然でしょう。
建築プロジェクトに関わる中で学んだのは、合意形成の重要性
建築するビルにどんな法人・団体がテナントに入るか、事前に決まっていることもあります。学校法人が入るのであれば、学校運営がしやすいような設計の配慮を求められる場合もあります。外資系のIT企業が入る場合など、こだわりの強い要望を受けたりもします。もちろん、設計の人間が何もかも対応するのではなく、プロジェクトマネージャーやデベロッパーを担う人が取りまとめ役になるのですが、そういった複雑な要望を考慮しながら建築物の設計や施工が行われるということは、理解しておかなければなりません。
あらゆる立場の要望を聞いた上で、最後には「だったらこういう形で行きましょう」という専門家としての提案も必要です。「このデザイン、カッコいいでしょ」といった独りよがりな考えでは周囲を説得できませんが、いろんな方面を見渡した上で、このデザインで行くという確固たる意志は不可欠です。
私はさまざまな建築を経験する中で、プロジェクトを進める上での合意形成の大切さを学びました。成熟社会を迎えた日本では、合意や共感を大事にする姿勢が、いっそう大事になると感じます。
設計側も施工側も、互いの意図を汲み取らないといけない
建築系学科を出て設計者の道を選ぶ人もいれば、施工側に進む人もいるでしょう。多くの人は「図面を描くのが設計者、それに沿って建物を造るのが施工者」と思うかもしれませんが、そういう区分けも通用しなくなっています。
設計者の描いた図面を基に建築が進むのは事実です。しかし設計図には施工の細かな点が示されていないので、施工側では通常、新たに施工図を作成します。凝ったデザインや複雑形状の建物であるほど、施工においてはより的確な工夫が必要になるのですが、その点は施工側の技術でカバーしている、というのが実情なのです。
つまり、設計者は「図面を描けば終わり」ではなく、施工段階にも責任を持たないといけないし、一方施工側には、設計者の意図を正しく汲み取るための視野やコミュニケーション力が求められる、ということです。
建築と設計のあり方を総合的にとらえ、よりよい環境を創ることに寄与したい、というのが私の研究テーマです。手をつける箇所が多岐にわたるため、容易に成果が出せるとは考えていません。しかし、建築の現場で活躍しようという人々が持っておくべき姿勢や視点は、しっかり伝えていきたいと思います。