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広島工業大学

食健康科学科

中井 忠志

教員紹介

中井 忠志NAKAI Tadashi

環境学部 食健康科学科 教授

研究紹介

研究者情報

プロフィール

【専門分野】
○生化学
○分子生物学
○構造生物学
【担当科目】
酵素化学 、 生合成化学 、 分子細胞生物学 、 遺伝子工学 、 生化学実験 、 食品学実験
【研究テーマ】
1.複雑な翻訳後修飾を有する酵素の成熟メカニズムの解析
2.ラジカルSAM酵素を用いた新規生理活性ペプチドの開発
3.酵素の生化学的解析とX線結晶構造解析
【ひとこと】

学生時代には勉学に限らず色々なことに挑戦してください。その過程で自分に合った進路に近づけると思います。
「好きなことで生きていく」は魅力的な言葉ですが、自分に合った仕事で他人のためにも役立てるものこそ天職といえるでしょう。

研究紹介

中井 忠志NAKAI Tadashi

環境学部 食健康科学科 教授

X線で酵素の構造を徹底的に解析。
病気の克服や身体機能の改善に貢献したい
PROLOGUE

ほどよいお酒は人を心地よくさせるもの。ですが中には、1杯だけで顔が真っ赤になってしまう人や、全く飲めないという人もいます。実は、これは酵素の働きが関係しているのです。酵素は、体に入ったアルコールをアルデヒドに、そして酢酸に分解するそれぞれの段階で関わっています。お酒があまり飲めないとか全く受けつけないのは、酵素がうまく働いていないという理由が大きいのです。中井先生は、生体内で働くそうしたさまざまな酵素を研究しています。

ナノメートルのスケールで酵素の構造や機能が分かる

食物の消化や呼吸、筋肉運動など、私たちはさまざまな生命活動を行います。生体内で起こるこれらの化学反応には、すべて酵素が関わっています。酵素の主成分であるタンパク質は、20種類のアミノ酸の結合によって作り出されます。これらが遺伝子の設計図通りに構成されていれば問題ないのですが、時にはアミノ酸の配列が変わったり、分子が欠損するケースもあります。そうすると酵素がうまく機能せず、病気の原因となることがあるのです。
私は酵素を対象に「X結晶構造解析」で、その形状や構造、機能を調べています。ナノメートルの単位で分かるので、タンパク質の立体構造まで解析できます。酵素における変異が身体機能をどう阻害するのか分かれば、病気を克服する手段も見つかるかもしれません。
食品添加物にも利用される、グリシンというアミノ酸があります。グリシンが体内に入ると、グリシン開裂系と呼ばれるシステムが働き、T-タンパク質、P-タンパク質、L-タンパク質という3つの酵素によってグリシンを分解します。
ところが、グリシンをうまく分解できない「高グリシン血症」という病気を抱える人がいます。そこでグリシン開裂系をX結晶構造解析で詳細に見てみると、P-タンパク質に先天的な欠損があり、うまく機能していなかったことがわかりました。酵素の中にたった一つの変異があるだけで、重い病気につながってしまうことがあるのです。

未発見の酵素や未解明の機能がまだまだたくさんある

原因が分かれば、対策を見出すこともできます。変異の箇所が補酵素の働く位置に近ければ、補酵素であるビタミンやミネラルを摂取することで機能を手助けする、などの方法も考えられます。対処法を考えるためにも、構造の解析が重要なのです。
酵素の研究には、さまざまな角度からのアプローチがあります。X線結晶構造解析を行うには専門的設備が必要ですが、酵素の活性や性質なら分光光度計やスペクトルでも調べられるので、学生でも対応できます。また大腸菌を遠心分離機にかけて目的の酵素を取り出したり、遺伝子操作によってタンパク質を生成する、といった技術も学べます。これらはバイオテクノロジーの基本なので、学生が社会に出てからも役立つでしょう。
酵素には、国際酵素委員会に登録されているものだけで8000種類あります。そのすべての構造や機能が解明されているわけではなく、また未発見の酵素も数多く存在します。学生とともに研究を深め、酵素の謎を少しでも明らかにしたいと思います。

グリシン開裂系。
体内にグリシンが入ると
T、P、Lの3つのタンパク質が働き、
グリシンを分解します
X線結晶構造解析によって
明らかになったP-タンパク質の構造

タンパク質の詳細な解析が、難病克服につながる

新型コロナウイルスのRNAワクチン開発にも、X線や電子線を使ったタンパク質の構造解析技術が活⽤されています。コロナワクチンは、接種したRNAをもとにウイルスのスパイクタンパク質を体の中で作らせます。そのタンパク質に対して免疫が作られるのです。
スパイクタンパク質は本来、ウイルス表面に搭載され、感染に都合のよい形状をしています。RNAワクチン接種ではスパイクタンパク質が単独に作られますが、実はスパイクタンパク質を単独で作っても、形が崩れてしまいます。そうすると本物のコロナウイルスが入ってきても、免疫がうまく働きません。
この問題を解決するため、米国の研究者がスパイクタンパク質の構造を調べました。そして2ヵ所のアミノ酸をプロリンという固いアミノ酸に変異させることで、形が崩れないようにしたのです。モデルナ社・ファイザー社のワクチンはともにこの2ヵ所のプロリンの変異が導入されており、非常に効果の高いものとなっています。
私たちの体やウイルスでは、タンパク質が重要な役割を担っています。タンパク質の構造を詳しく調べることは、難病の克服につながる可能性があるわけです。