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広島工業大学

地球環境学科

平賀 良知

教員紹介

平賀 良知HIRAGA Yoshikazu

環境学部 地球環境学科 教授

研究紹介

研究者情報

プロフィール

【専門分野】
○天然物有機化学
○機器分析化学
【担当科目】
基礎化学 、 無機化学 、 分析化学 、 有機化学 、 生物有機化学 、 生物化学 、 基礎化学実験 、 生化学実験
【研究テーマ】
1.赤潮など、海洋生物由来の生理活性化合物の構造研究
2.有機分子触媒の創製と有機反応への応用
3.有機反応を利用した対称化合物の選択的非対称化研究
【ひとこと】

大学での4年間はあっという間です。自分が選んだ道を信じて、自分でよく考え、見極め、信念を持ってチャレンジしてください。

研究紹介

平賀 良知HIRAGA Yoshikazu

環境学部 地球環境学科 教授

二枚貝死滅の原因も、創薬に貢献する分子の作用も。
化学の力でさまざまな謎を解明
PROLOGUE

海が赤く変色するほどプランクトンが異常に増殖する「赤潮」。養殖場の魚などに深刻なダメージを与える赤潮は、多種多様な生物によって構成されています。中には、牡蠣や真珠貝といった二枚貝だけを死滅させてしまう変わり種も。そこで、二枚貝死滅の原因となる化学物質の構造やメカニズムを明らかにしよう、というのが平賀先生。先生はその他にも、創薬に貢献するため、分子間や分子内に働く弱い力を、アミノ酸の分子を用いて調べたり、植物に対するホルモンの影響を分析したりするなど、化学の力でさまざまな謎を追究しています。

分子量が巨大でなかなかつかめなかった、ヘテロカプサの全貌が見えてきた

ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマというプランクトンは、魚類には致死活性を示さないにも関わらず、牡蠣や真珠貝などの二枚貝を死滅させる新種の赤潮プランクトンです。このような赤潮被害はこれまで例がなく、牡蠣養殖の盛んな広島でも養殖した牡蠣や海岸のアサリが全滅するなど、社会問題となりました。
そこで私は、ヘテロカプサに含まれる致死活性物質の単離と活性発現機構の解明に着手し、本学着任後も引き続き、致死活性物質の単離と構造解明を進めています。これまでに、ヘテロカプサが産生する致死活性物質として、HTX-AとHTX-Bの2種類の超炭素鎖有機分子を見出しており、いずれも分子量が巨大で、全体構造の解明に時間がかかっていました。しかし、ゼミ配属された学生の努力により少しずつですがいろいろなことがわかってきており、この研究は最終段階に来ています。
天然物化学の研究では、他に、沖縄県の近海で採集されたソフトコーラル(軟体サンゴ)に含まれる生理活性物質の探索を行っています。これまでに、ソフトコーラルから抗カビ・抗菌活性物質の存在を見出しており、どのような化学分子が生理活性をもたらしているのか、興味が尽きません。
ただし、現在扱っているソフトコーラルは、沖縄の海でしか採取できないため、常に潤沢にサンプルが確保できるわけではありません。ロスが許されないという制約はありますが、何とか成果を出していきたいと挑戦しています。

薬が病気の細胞に近づくとき、分子レベルでどんな作用が起こっているのか

創薬に関わる別のテーマも抱えています。多くの人は、薬を飲んだら薬効成分が直接病気を治療してくれる、と思うかもしれません。飲んだ薬の薬効成分が、直接化学反応により化学結合し、患部が治るものもあれば、薬効成分が、細胞の近くで、「ここがおかしい」というシグナルを出すことで、シグナルに反応した生体のさらなるシグナル伝達がさまざまな薬理作用を細胞に働きかけるものもあります。特に、薬効成分と細胞表面の受容体との「分子間相互作用」によって、シグナルが伝わるメカニズムはとても興味深いものです。しかしながら、どのような「分子間相互作用」を引き起こしているのかについては、正確にはわかっていません。
私は、分子レベルでどのような相互作用が起こっているのかを、分析機器を用いて間接的にとらえることに挑戦しています。
その一環として、有機溶液中で、タンパク質を構成するアミノ酸やジペプチドに含まれるカルボニル基の電子密度の変化を核磁気共鳴装置(NMR)で、カルボニル基の振動を赤外分光光度計(IR)でそれぞれ測定し、さらにコンピュータによる量子計算でのシミュレーションを行うことで、アミノ酸のカルボニル基と溶媒分子との分子内および分子間相互作用を調査しました。今後、薬効成分と細胞表面の受容体との分子間相互作用に拡張し、事前に「この分子とこの分子が近づくはず」と推測できることが夢です。

また、アミノ酸類似化合物による分子間相互作用を詳細に解析することで、分子内のヒドロキシ基に由来する分子間相互作用を利用した有機分子触媒の創製に興味をもっています。私がこれまでに創製した有機分子触媒では、ヒドロキシ基の立体化学によって、分子と分子を立体選択的に結合させることに成功しています。
特に、有機分子触媒には金属元素を含まないため、環境負荷の少ない触媒として、近年注目されており、今後、ますます発展するものと期待しています。

分子間相互作用を
コンピュータでシミュレーションし、
どの官能基が作用するのかを推測

「有機農法=安全」というわけではない。植物に作用する化学物質を調べたい

今後、取り組んでいこうとしているテーマが「植物に対するホルモンの影響」です。
「有機農法」は、化学肥料を使わずに野菜などを生産する方法の一つですが、一概に「健康にいい」とは言い切れません。有機肥料の中には畜産業から出る動物性肥料と、落葉や草を発酵させた植物性肥料に大別されます。動物性肥料の中には家畜の食べていた物が含まれます。そこに「動物には害がないが、植物に与えると悪いホルモン作用を及ぼす化学物質」がないとは言い切れません。例えばアルコール、カフェイン、そしてニコチンなどは、は、適量なら人間が合法的に摂取できる化学物質の例ですが、だからと言って、植物にそのまま与えても良いでしょうか。
つまり「有機農法だから安全」というわけではないのです。有機肥料に含まれる物質を化学的に調べ、植物の生育を健全に促進するのか、あるいは悪影響となるのか、明らかにしていきたいと思います。特に、ホルモン作用を起こす化学物質が植物に与える影響を調べていきたいと考えています。
私のゼミでは、「なにか面白いものはあるか」を合言葉に、どの研究も興味をもって取り組んでいますが、問題解決や自然現象の解明には、一朝一夕にできるものは多くありません。むしろ時間のかかるものばかりです。なにより、じっくりと、興味ある研究テーマに取り組むだけに、私のゼミでは、しっかりと論理思考をもとに、着実に突き詰める姿勢が身につきます。さまざまなメーカーで研究職として活躍する人材を多く輩出しているのは、そのおかげかもしれません。

ゼミの学生に「着実に突き詰める」
という姿勢が身についています