地球環境学科
田中 健路
教員紹介
プロフィール
- 【専門分野】
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○水文気象学
○海岸工学
- 【担当科目】
- 地球環境科学 、 大気水圏の科学 、 水の災害 、 環境解析演習 など
- 【研究テーマ】
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1.様々な条件下(チベット高原・干潟など)での地表面から大気への熱・水蒸気・CO2輸送に関する観測
2.東シナ海上を伝播する気圧微変動と潮位副振動の発生に関する観測および数値シミュレーション
3.降水システムの地形依存に関する研究
4.地域住民とのコミュニケーションによる水害対策に関する研究
5.地域水循環を踏まえた地下水持続利用システムの構築
- 【ひとこと】
大学で過ごす4年間は幅広い知識と技術を身につける大きなチャンスです。社会が何を求めているのか幅広い視野で捉え、これまで学んできたことが社会でどのように役に立つかを表現する力を養いましょう。
研究紹介
田中 健路TANAKA Kenji
環境学部 地球環境学科 教授
集中豪雨の予測精度を上げるため、
海上低空域の水蒸気を観測する。
PROLOGUE
初夏から秋にかけて毎年のように各地で発生する集中豪雨。一度発生すると道を水浸しにして川を氾濫させ、土砂崩れを起こすなど、地域に甚大な被害をもたらします。気象庁なども最新の技術で豪雨予測の精度を高めてはいるものの、まだまだ十分ではありません。
そこで、予測精度のさらなる向上に寄与できないか、と研究しているのが田中先生。先生は“海の上の水蒸気”に着目しています。「気象庁の雨雲レーダーは雲の発達具合を観測していますが、雲になる前の水蒸気のデータを集めると、精度が高まります」と先生は言います。
海上低空域の水蒸気は、まだ十分に観測されていない。
昨今の集中豪雨の主な要因となっているのが、線状降水帯です。大量の雨を含む積乱雲が連続して発生し、数時間に渡って通過、または停滞するため、その直下にあたる地域に豪雨がもたらされるのです。この線状降水帯に大量の雨を供給しているのが、海です。海から蒸発した水分は、海面から高度1km未満の低層域に水蒸気として漂います。そして、より高い上空に到達すると雲に発達し、積乱雲を形成するのです。
現在国内外で運用されている気象予報システムでは、地上観測や人工衛星観測など様々な観測データを利用して誤差を最小化する技術を導入し始めています。しかし、その予測精度は、まだ十分ではありません。シミュレーションが現実と合わず、雨雲の位置が数十km単位でずれることが現実に起こっています。それによって避難勧告などが遅れると、被害が拡大するかもしれません。精度を上げるには、より多くの情報を収集して解析する必要があるのです。そこで私は、海から高度数百mの低層域に着目しました。海上の低空域にある水蒸気は、積乱雲の前段階です。この状態を正確につかめば、予測精度の向上につながるはずです。私は、ドローンを活用して、海上低空域の水蒸気を観測しようと考えました。
ドローンを海上に飛ばし、温湿度に気圧、風速まで計測。
空の観測に主に使われるのはラジオゾンデというゴム風船のようなものですが、風に流されるので、その場にとどまっての観測ができません。また6~12時間に1回の観測が限度で、タイムリーな情報取得には向いていません。
しかしドローンなら空中に静止できますし、必要な手続きを経ていれば、観測が必要なタイミングで飛ばせます。ドローンに小型の湿度・温度・気圧センサを装着して低空域に飛ばし、水蒸気の状態を観測するのです。機体に風を受けることで風速も計測できるため、多面的な情報が収集できます。現在は学生とともに、大学の近くにある海上でドローンを実際に飛ばし、低空域がきちんと観測できるかどうか、実験を重ねています。1回のフライト時間は20〜30分程度ですが、直線距離で2〜4km、高度500mの範囲を飛行します。バッテリを交換すれば飛行時間はもっと長くできるので、観測に不都合はありません。ドローン操作は学生に任せることも多いのですが、自在に操っていますよ。中にはドローン操作検定に合格してから観測に参加する学生もいます。
移動しながらの測定なのでセンサの応答の遅れなど、観測精度を高めるためにまだまだノウハウを重ねなければいけません。しかし、海上低空域の水蒸気を観測するための手法として確立できそうな手応えを感じています。
気象のメカニズムを解明し、安全な社会づくりに貢献する。
高度1kmの海上低空域の湿度が1%下がると、3時間雨量250mmという猛烈な勢いだった雨量が200mmを下回った、というシミュレーション結果もあります。同様に湿度が5%下がると、ほとんど雨が降らなくなったのです。海から入ってくる水蒸気の状態は、全体の雨量にそれほど大きな影響を与えるわけです。
私はこれまで、気象のメカニズムの解明について多方面から取り組んできました。気象が海・潮位に与える影響についての研究を進めたり、地球規模の気候観測システムに関する国際プロジェクトに携わった経験もあります。コンピュータの並列計算を用いた気象シミュレーションも早くから実践していますし、地域住民と連携した水害に強いまちづくりなどにも参加しています。
気象現象自体の制御は困難ですが、その姿を正しく理解することにより、自然災害による影響を軽減できます。これからも様々な研究を進め、安全な社会づくりに貢献していきます。