情報工学科
吉川 裕之
教員紹介
プロフィール
- 【専門分野】
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○分光計測
○バイオセンシング
○ナノフォトニクス
- 【担当科目】
- 回路入門 、 HIT基礎実践A/B/C/D 、 HIT応用実践A/B/C/D など
- 【研究テーマ】
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1.POCTのための高感度バイオセンシング技術の開発
2.ナノ・マイクロ構造を利用した分子情報解析
3. 単一細胞、ナノ粒子のレーザー計測
- 【ひとこと】
人類共通の課題を解決し、世の中を便利で豊かにする。大きな目標を持って専門力、人間力を磨きましょう。
研究紹介
吉川 裕之YOSHIKAWA Hiroyuki
情報学部 情報工学科 准教授
光技術とナノテク、そしてITを融合し、
新たなセンシング技術を開発
PROLOGUE
健康診断で必ず実施される血液検査。血液を調べると体の状態がいろいろわかるので大事なのですが、針を刺して結構な量の血を抜く作業は、体に負担をかけてしまいます。結果が出るまで時間もかかるなど、簡単な検査ではありません。もう少し簡単に短時間で検査できる方法ないものか…そんな声に応えるのが𠮷川先生。もともと光を利用した分光計測を専門とする先生は、光技術とナノテクノロジー、そしてITのビッグデータ解析や信号処理技術を融合し、新たなセンシング技術を開発しようとしています。
金・銀の微粒子を利用し、病気の痕跡を示すタンパク質を検出
下の写真をご覧ください。一番右の大きなガラスビンに赤い液体が入っていますね。これはナノメートルサイズの金微粒子が入ったコロイドです。左の4つの液体は色が黃・青・紫・緑とバラバラですが、いずれも銀のコロイド。私たちがよく知る金・銀の色とは全く違いますね。
金や銀などの金属が微粒子になると、物性が変わって色が変化します。これを表面プラズモン共鳴と言い、ステンドグラスの着色などに使われてきました。この性質を、センシングに応用する研究が各方面で行われています。
人体はさまざまなタンパク質を作り出しますが、中には「このタンパク質が血液内で発見されたら、○○の病気にかかった可能性が高い」という具合に、病気の痕跡を示すものがあります。そこで、金や銀の微粒子に、特定のタンパク質とだけ結合する抗体を付着させたセンサを作製します。
そして血液や唾液をほんの一滴、センサの上に垂らすのです。ターゲットのタンパク質が存在すれば、抗体と結合し、表面プラズモン共鳴によってセンサの色が変化します。その変化で、医学知識のない人でも、病気の兆候がすぐわかるのです。日常的に検査しておけば、病気の早期発見につながります。
微弱なラマン散乱の光を解析するため、ITの力が不可欠
プラズモン共鳴をセンサに応用するためには、分子や微粒子のサイズ・形状の違いが色の変化にどう影響するのか、分光特性を解析しなければなりません。私は、分光法や特性を解析する手法について研究しています。
分子などの物質に光をあてると、散乱という現象が起こります。その中の「ラマン散乱」と呼ばれる光を解析すると、金・銀の微粒子に抗体を付着させなくても、どんな分子が存在するかわかります。さまざまな分子の発見に使えるラマン散乱は、医療だけでなく、食品衛生や環境ホルモン測定、あるいは新型ウィルス検査などにも活用できると期待されています。
しかしラマン散乱は大変微弱な光です。そこで表面増強ラマン散乱というナノテクを用います。そうすると高感度で分析できるのはいいのですが、ノイズも増えてしまうのです。そこでノイズを除去し、有効な光の情報だけを抽出するため、ITが必要になってきます。
コロイドの中にはいろんなサイズ・形状の微粒子が存在します。たくさんの微粒子のラマン散乱を最大限に捕捉することで、いわゆるビッグデータが形成されます。これを、多変量解析や機械学習といった手法により、有益な情報とノイズを切り分けるのです。効率的に解析を進めるには、コンピュタ上のシミュレーション技術も高めていかなければなりません。
画像解析やAIで、センサ開発をスマートに
センサ用のチップを作るには、基板にマスクシートを貼り付け、シートの開口部に光をあててナノの構造を作る独自技術を利用します。チップの目的によって開口部のサイズ、個数、形状が異なるため、従来は光をあてる位置や時間の設定を手作業で行っていました。しかし、光のあてる場所を自動認識し、光の強度を制御するシステムがあれば、ばらつきのないセンサチップが短時間で作れます。開口部の位置や形状の認識には、画像解析やAIが不可欠です。
分光法によって取得したデータは、膨大な種類の分子の情報を含む場合があります。例えばES細胞では、体のさまざまな器官に分化する進み具合が重要で、それをラマン散乱によって見分けようとしましたが、情報量が多くて解析に苦労しました。ITの力を導入すれば、これらの解析がもっと効果的に行えるはずです。学生とともに研究を重ね、医療をはじめ、さまざまな分野に貢献していきたいと思います。