情報工学科
趙 悦
教員紹介
プロフィール
- 【専門分野】
- ○コンピュータネットワーク
- 【担当科目】
- HIT基礎実践A/B/C/D 、 プログラミング基礎 、 ネットワークプログラミング 、 専門ゼミナールA/B
- 【研究テーマ】
-
1.ネットワークの通信プロトコルに関する研究
2.ネットワークにおける効率的なファイル配送に関する研究
- 【ひとこと】
持之以恒(根気よく続けること)。これは私の座右の銘です。
研究紹介
趙 悦ZHAO Yue
情報学部 情報工学科 教授
このままだとインターネットの『住所』不足で、
ネットが使えなくなる?
PROLOGUE
パソコンもスマートフォンも、今や一人1台が当たり前。情報通信機器は、全世界的にますます普及しています。おかげで、どこからでもネットが利用できるようになり、便利になった一方、困った事態も発生しています。インターネット上の『住所』を示すIPアドレスが、足りなくなってきているのです。住所がわからないと郵便や宅配物が届かないように、IPアドレスが枯渇すると、インターネットが使えなくなってしまうかも。こうした事態を避けるため、趙先生をはじめ世界中の研究者が今、新たな『住所』づくりに取り組んでいます。
従来型の規格『IPv4』では、既にIPアドレスが枯渇している
IPアドレスとはインターネットに接続する際、情報端末一台ごとに割り当てられる識別番号で、『住所』のようなもの。住所が確かだから、ネットを介して情報のやり取りが可能なのです。
現在のIPアドレスの規格は『IPv4』と呼ばれ、約43億個のアドレス生成が可能です。これだけあれば十分だろうというのが、IPv4を定めた頃の研究者の常識でした。ところが、情報端末の進化が予想を超えたのです。
今や多くの人が、パソコンやスマートフォンからインターネットにアクセスします。TVなどの家電も、ネットワークにつながってさまざまなサービスを提供しています。新興国の経済発展により、情報端末は世界中に広がりました。これでは不足するのも当然でしょう。IPv4規格のIPアドレスは、2011年2月に枯渇してしまいました。
IPアドレスがなければ、Web閲覧もメールもできません。企業はインターネットを利用して情報管理や機器制御、サービス提供などを行っていますが、これらも一切できなくなってしまいます。生活も産業も停滞してしまうのです。
こうした問題を解決するのが、新たな規格『IPv6』です。
IPv4とIPv6の間には互換性がない。だから移行がなかなか進まない
32ビット長のIPv4に対し、IPv6は128ビット長。32ビットとは2の32乗ですが、128ビットは2の128乗にもなります。これは340兆×1兆×1兆という途方もない数字で「ほぼ無限大」と言って差し支えないでしょう。これならアドレス枯渇の心配はありません。IPv6の必要性が叫ばれ始めたのは1990年代後半で、私ももう10年以上、IPv6の研究に取り組んでいます。
IPv4は既に枯渇しているのですから、本来はすぐにでもIPv6に移行するべきですが、現状はそうなっていません。一部の大手IT企業や通信会社がIPv6運用を開始しているものの、大半の企業はまだ様子見です。と言うのも、IPv4とIPv6では互換性がないのです。
IPv6に移行するには、ネットワーク通信機器やプログラムなど、全てを更新しなければなりません。そのコストは莫大です。しかも、ユーザーの利用する情報通信機器がIPv6対応になるまでは、IPv4の設備やプログラムも並行して維持しなければなりません。手間やコストが大きな負担となるため、なかなか進まないのです。
次代のネットワーク社会のため、IPv6の確立を急がなければならない
IPv6には未解決の技術的課題もあります。代表的なのが『エニーキャスト』です。これは複数のサーバーに同じアドレスを付与し、サービスを利用するユーザーがアクセスする際、どれか一つのサーバーにアクセスさせる仕組みのこと。ネットワークの利用が効率的になり、サーバーの負荷低減にもつながる、魅力的な技術です。
しかし、エニーキャストはIPv6から登場した新技術のため、まだ完成されたものではありません。どのように最適サーバーを発見させるか、というルーティング問題や、時間経過と共にアクセスするサーバーが変化したとき、双方向通信が維持されるか、といった問題が残されています。これらを克服しないと、実用化は難しいでしょう。
とは言え、IPv6の運用はもう待ったなし。今後は各家庭内に次世代電力計『スマートメーター』を導入し、全電化製品をつないで消費電力量を制御することで節電・省エネに貢献する構想もあります。その主役は、インターネットを中心とするネットワーク通信です。これからの社会のために、私もIPv6の確立と普及に力を尽くしたいと思います。
学生にはネットワークに関する基礎的な知識に加え、「論理的思考力」を身につけてもらいたいと考えています。技術進化の早い分野ですが、現象をとらえ、問題点を把握し、解決策を考案し、実行する姿勢は、時代がどう変わろうと必要なもの。その基盤が論理的思考力です。一時の流行に左右されない、「知的な基礎体力」を持った学生を育成したいですね。