情報システム学科
安藤 明伸
教員紹介
プロフィール
- 【専門分野】
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○教育工学関連
○科学教育関連
○技術・情報教育学および初等中等教育学関連
○ヒューマンインタフェースおよびインタラクション関連
○学習支援システム関連
- 【担当科目】
- 行動科学 、 認知科学 、 Webデザイン 、 情報コミュニケーション概論 、 コミュニケーションシステムデザイン 、 社会実践科目
- 【研究テーマ】
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1.行動変容を促す情報提示・体験の方法に関する研究
2.技能の独学に関する研究
3.技術、情報および工学に対する動機づけに関する研究
4.行動のアーカイブ・記録に関する研究
5.行動の分析・可視化に関する研究
- 【ひとこと】
大学では、高校までの自分と異なる自分に沢山出会えることでしょう。これまで苦手だったことの面白さに気が付いたり、好きだったことがさらに大好きになったりします。そして、大学生活の真骨頂は、研究室に配属されてから過ごす時間です。それまでは「教科書にあること」、つまり、過去のことを学習することが中心でしたが、研究室で取り組むことは「教科書にないこと」なのです。それは未来のことにチャレンジすることです。それはとてもワクワクする時間です。
みなさんのチャレンジを応援しますので、一緒に未来の教科書を創ってみませんか。
研究紹介
安藤 明伸ANDO Akinobu
情報学部 情報システム学科 教授
行動科学を用いたEdTechで、人の行動を引き出す
PROLOGUE
2020年度から、小学校でプログラミング教育が必修化されたことを知っている人も多いでしょう。文部科学省主導のもと、全国の小学生がタブレットやパソコンでプログラミングを学んでいます。しかしこれは、JAVAやCといったプログラミング言語の習得を目的としたものではありません。「大事なのは、意図したことの実現のために、手順をどう分解し、どういった具体的な指示を行えば、相手(人や機械)は間違いなく動くか、という“プログラミング的思考”ができるようになることです」と語る安藤先生。文科省でプログラミング教育に関する各種委員を務め、中学校技術科の教科書の執筆経歴を持つ先生は、さらに幅を広げ、「行動科学」という観点から様々な研究に取り組みたい、と考えています。
何をどうすれば意図した結果を生むか、という思考法が重要
私は以前、技術科教員として中学校の教壇に立っていました。後に、教員を養成する側に回ろうと、宮城教育大学で20年勤務。この間、中央教育審議会・情報ワーキンググループ委員、文部科学省・プログラミング教育に関する手引の作成委員などを務めました。他の委員とともに、学校現場におけるプログラミング教育の重要性について議論を重ねてきたのです。そうした意見が基となって、実際に小学校でプログラミング教育が始まっています。
プログラミング教育の本質は、言語を学ぶことではありません。重要なのは、何をどうすれば自分が意図した結果が生まれるか、というプログラミング的思考を身につけることです。このことは、人から行動を引き出すには、どういう筋道が必要かという考えにも通じます。
また、スマホを手に持って90度回転させると、画面が追従して回転しますよね?あれはスマホの中のセンサが重力を感知し、それに応じて画面を回転させているだけです。しかし、仕組みを知らなければ、魔法のように感じる人もいるでしょう。その“魔法”の本質を知らないと使いこなすことはできないし、生成AIなど新たな“魔法”がどんどん生まれる昨今、“魔法”にだまされる危険すらあります。そのためにも、「何をどうすればそうなるのか」というプログラミング的思考が大事なのです。
行動科学を考えた仕組みは、人を迷わすことがない
私は、行動科学という観点で研究を進めています。行動科学とは、人の行動の因果関係や傾向を論理的に考えることです。また、人間の行動を分析し、パターンやルールを見つけて原理化することもあります。「適切な指導で、学生の行動を引き出す」という意味では、私が長く携わってきた教科教育も、行動科学の一つの領域と言えるでしょう。
生活の中で、誰かに説明されなくても行動が引き起こされている例を挙げてみましょう。飲食店などの手洗い場を思い出してください。蛇口の形態は店舗によって様々ですが、ほとんどの人は自然に、何らかの方法で、水を出し、手を洗って水を止める動作を行えるはずです。なぜなら言葉で説明されなくても、手洗い場、そして蛇口がある場所や状況で、手をきれいにする場所であることがおのずと伝わるからです。これをアフォーダンスと言います。
しかし中には、水が出るのかお湯が出るかわからない蛇口もあります。この場合、お湯が出る方に赤いマークが示されていたりします。マークを認知して、人はお湯を出すか水を出すか、自然と決定します。これをシグニファイアと言います。
アフォーダンスとシグニファイアが適切に施された仕組みは、人間を迷わせません。こういったことを情報システムに応用すれば、使いやすくわかりやすいものになります。こうしたことが、行動科学における研究テーマの一つになります。
地域や企業と連携して様々な研究に取り組み、成果を還元したい
スマホでWebページを見ていて、無意識に何かのボタンを押し、やたらと通知が届いたり広告が出るようになってしまった経験はありませんか?広告を消すにも押し間違いやすい場所や小さな閉じるボタンを配置したり、入会手続きは簡単でも退会手続きはわかりにくかったり、何か購入しようとして悩んでいると、画面に「今、購入した人がいます!」「この商品を10名の方が見ています!」「残り2個」とポップアップ表示され気持ちを焦らせる仕掛けがあることがあります。これは、行動科学の悪用、とまでは言いませんが、ユーザビリティ(使いやすさ)が意地悪でデザインや人間の心理を欺くものではないでしょうか。こうした仕掛けは自然現象ではなく、誰かが作ったプログラムで動いています。仕掛けの仕組みや因果関係がわからないと、「何だか知らないうちに」広告が出始めた、と感じることでしょう。こういう“魔法”を見破る能力を身につけるのも、プログラミング教育の役目の一つです。
行動科学の研究テーマは、洗面所の蛇口にも、Webサイトにも、もちろん教育にも、あらゆるところにあります。私は技術科を教えていた経験から、学生とともに、のこぎり引きやカンナがけを中学生に正しく教えるための教育システム構築もやったことがあります。このシステムでは、プロの動作をモーションキャプチャで取得し、正しい動きをどの角度からでも見られるVRコンテンツを作成したりもしました。今でいうEdTechです。
他に、新スタジアムで、デジタルサイネージを使って人々の行動を喚起しよう、といったプロジェクトもスタートしています。ゼミの学生には、自身の趣味である筋トレに焦点をあて、センシングで最適な動作を一人でトレーニングできるシステムの開発に取り組む者もいます。このように行動科学には、多彩な研究テーマがあります。これまで重ねてきた経験や知識を、いろんな研究によって世の中に還元していこうと思います。