技術の最先端に触れる・感動する ~オープンキャンパス開催(1)
2018.09.25
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学生たちの好奇心と探究心は、どんな科学技術を生み出すか。
虹色に光り、時間と共に光を次々に変えるLEDロープ。
ムーンウォークするロボット。
熱源を選ばないエコなエンジン。
巨石の混じった土石流への対策。
山の中の"展望型トイレ"。
...学生たちの好奇心と探究心はとどまるところを知らず、多彩なものを発想し、創造しています。そうした数々の成果や、研究・技術のトレンドを体験できる、広島工業大学のオープンキャンパスが、今年も7月15日、8月19日に開催されました。
多くの高校生が来場し、各学科やイベントチームの用意したプログラムを楽しみながら、自分の将来を描いていたようです。
そのオープンキャンパスのプログラムを、ほんの一部ではありますがご覧ください。第一弾では、工学部のプログラムについてご紹介します。
雲一つない晴天の下、オープンキャンパスが開催。爽やかな看板が高校生たちを出迎えました。
まだ受付開始前ですが、既に多くの高校生や保護者の方々が列を作って、スタート時間を今や遅しと待っています。
地球環境学科の女子学生たち。左の女子学生が背負っているのは周囲の温度・湿度・気圧が測れる測定装置。ヒートアイランド現象の研究などに使用するのですが、暑いこの日は広島工業大学を測定して回っていました。
JCDセンターコーナーでは、訪れた女子高生にいろんなものづくりを体験してもらいながら、先輩女子学生が高校生の質問に答えていました。ちなみにこれは、重曹やクエン酸などを調合して入浴剤を作っているところ。こういった物を作るのは初めての女子高生も、先輩のアドバイスで上手に調合でき、オリジナルの入浴剤が完成しました。
- 電子情報工学科
体内を立体で映し出す内視鏡。その秘密は"トンボの眼"
写真右の黒い棒状のものは、胃の検査などで使う内視鏡。でも今までの内視鏡とはちょっと違います。この内視鏡で見ると、奥のモニタ上に出ているように、9分割された画像が出てきます。これに補正をかけて統合すると、見る人の目には立体像として映し出されます。つまりこれは対象物を3Dで映し出す、立体内視鏡なのです。レンズの開発にあたったのが、本学科の山田先生。先生は内視鏡開発により、2007年のグッドデザイン賞を受賞。内視鏡は今や検査だけでなく手術でも使用されますが、患部を立体像で映し出すことができれば、より正確な手術が可能となるでしょう。
立体内視鏡のヒントとなったのは"トンボの眼"。トンボの眼は、片方に2万個ものレンズを持つ複眼です。複眼によって360度の景色を精密に認識するため、時速30~70kmの猛スピードで飛行しながら、トンボは飛び回る他の虫を捕食できるのです。この複眼を応用できないかと考えたのが、出発点でした。
不安定な2輪ロボットを自立させるための回路を設計
4個の単3乾電池を搭載し、様々な電子回路を組み込んだ2輪の車。この車は、2輪だけで器用に直立できます。電子回路内に体の傾きや回転運動の速度などを感知するジャイロセンサが内蔵されており、感知した傾きと反対方向に動くことで全体のバランスを保ち、不安定な2輪の状態で自立するのです。
直立状態を維持するには、ジャイロセンサを始めとする多くの素子やCPUが必要。同学科では、これらの素子が効率よく搭載・配線された電子回路を設計・製作する技術が身につきます。実際、この2輪自立ロボットは、学生たちが組み立てたもの。回路設計を学ぶ3年生からですが、早い学生は3年のうちからかなり高度な回路は組み立てられるほどに成長します。
構造的に不安定な2輪ロボットの直立には、本体の傾斜角、傾こうとする速度、車輪の力(トルク)、さらに車輪の接地する路面状態が複雑に関連し合います。全ての条件を読み取り、バランスを保つような回路を設計するのは、簡単ではありません。
- 電気システム工学科
女子学生の制御プログラムによる、光のイベント
電気システム工学科・電子情報工学科に所属する女子学生が協力して紡ぎ出す、幻想的な光のイベント。1本に数十個のLEDを装着したロープが虹色に光っています。このロープは時間と共に、赤からオレンジ、黄色と色を変えていくのです。これはアルデュイーノというマイコンを使い、LEDの光り方を制御しているため。制御プログラミングを組み立てたのは、もちろん女子学生たち。授業で習ったC++(シープラプラ)というプログラミング言語を駆使して作り上げました。他にも、時間の経過に合わせ、まるで花が咲いたように赤や青の光を輝かせるLEDなども創作していました。
ゆっくり色を変える、幻想的なLEDの光。ちなみに右の女子高生が手に持っている、上に丸いガラスのついた杖も学生の創作によるもの。杖を振ると、離れて置かれているLEDが輝きます。丸いガラスの中に加速度センサーを装着しているので、杖の動きにセンサーが反応してLEDを光らせるのです。
電波で伝送されるデジタルデータを、正しく復元する
例えば地デジ放送の場合、TV局制作の映像データは、電波として全国の家庭に送るため「変調」されます。各家庭に届いた電波は、テレビ内で再びデジタル信号に「復調」され、映し出されるのです。デジタル放送には、デジタルデータを伝送する変復調技術が欠かせません。
デジタル変復調で問題となるのが「マルチパス伝送」。マルチパスとは、空中を飛ぶ電波が山やビルにぶつかって反射したもので、デジタル信号の復調を阻害する"邪魔者"。このマルチパスの影響を低減するデジタル変復調の技術について研究しています。最近マルチパス伝送に強いOFDMというデジタル変調方式が急速に普及していますが、これらの技術をさらに高めることが、送受信の高品質化に役立ちます。
写真の青白い細かな点の一つひとつが、送信されたデジタルデータ。本来は、タテ8個×ヨコ8個の点として整然と集約されていないといけないのですが、64の集約箇所の周辺に、細かな点がばらけています。これはマルチパスの影響を受けているためです。
- 機械システム工学科
硬いものから柔らかいものまで、何でも切る"水"
この装置は「ウォータジェット」。0.1mm~1mmという細いノズルから、300Mpa(メガパスカル)という、大気圧(0.1MPa)の3000倍に相当する圧力で水を噴射します。その水に当たると、何でもすっぱり切れるのです。プラスチックのような軟質材から、ガラスやセラミックのような硬脆(こうぜい)材、2つ以上の性質を持つ複合材まで、切断・加工する素材は何でもOK。熱を発しないので熱変形・熱変性の心配もありません。使用するのは水なので、環境に負荷もかけません。多彩な方面に応用可能な加工設備を操作しながら、学生たちは知識を増やしています。
ウォータジェットの用途は多彩で、例えば船舶や建物など巨大な建造物の、部材は傷つけずに表面のコーディングだけを剥がしたい、という場合にも活躍します。元の部材は傷つけないため、再利用が可能です。
太陽熱・バイオマス熱でも動かせるスターリングエンジン
自動車のエンジンは、燃料と空気の混合した"気体そのもの"を燃焼させることでピストンを動かす「内燃機関」です。一方、気体そのものは燃焼させず、外部の熱で"気体が膨張・収縮する圧力"によってピストンやタービンを動かすエンジンを「外燃機関」と呼びます。その一つがスターリングエンジンです。
スターリングエンジンの大きなメリットが熱源を選ばないこと。石油やガスなどの化石燃料が不可欠の内燃機関と異なり、太陽熱、工場排熱、ゴミ・木クズなどバイオマスの燃焼熱でも動かせます。高出力を得るにはサイズが大きくなるのが欠点ですが、エコなシステムなので、世界中で研究が進められています。同学科の学生たちはスターリングエンジンを自主製作。改善を続けています。
写真左にあるのがα型スターリングエンジン。布で包んだ部分(シリンダヘッド)を電気ヒーターで温めます。するとシリンダ内の空気が膨張し、ピストンを押します。熱された空気が反対側のシリンダに移ると、今度は冷やされて収縮し、ピストンを引き上げます。この繰り返しにより、最大で1分あたり1000回転の出力が得られます。
- 知能機械工学科
数値入力不要。直観的に操作できるロボット
通常の産業ロボットの場合、専用の操作盤があり、加工・移動させる対象物の位置座標を数値入力して操作する、というのが一般的な操作法。しかしこの、赤と黒のカラフルなヘビのようなロボットは違います。ロボットの腕を人間の手で木片のある場所まで移動させ(軽いので簡単に動かせます)、次に移動先に持っていくだけ。数値入力など必要ないので、NC機器やロボット制御に慣れていない人でも、すぐ操作できます。こうした、動きを直接覚えさせる「ダイレクトティーチング」ができるのは、ロボット内で、自らの動きを操作プログラムとして活用する制御システムが働いているから。同学科では「誰もが直観的に機器が使える」ようにするための制御回路の設計やプログラムについても学んでいます。
ダイレクトティーチングが可能なこのロボットの名はSawyer。お掃除ロボットで有名な「ルンバ」を世に送り出した博士によって開発されたものです。学生たちは、最新鋭の機器を活用しながら、新たな制御法の研究を進めています。
ムーンウォークするロボットを組み立てる
写真中央に写るのは「マイケル」という名のロボット。マイケルの前で音を出すと、彼は器用にムーンウォークを始めます。ロボット自体はキットとして売られているものですが、組み立て方は組み立てる人の自由。ギアの組み合わせなども自分で考えます。うまく噛み合わせないと、全く動けなかったりします。マイケルを動作させるための制御プログラムも自作するので、例えばヒップホップを踊らせることも可能。もちろん、そのための組み立てとプログラムは自分でやらないといけません。マイケルを完成させたのは、同学科の2年生。ギアの調整を何度もやり直しながら、ムーンウォークを見事に再現しました。
販売されているロボットキットと言っても、組み立て方や制御方法が解説されているわけではありません。どういう動きのロボットにしたいか自分で考える必要があります。複雑な動きをさせようと思うと、プログラムもより高度になります。
- 環境土木工学科
豪雨で発生する、コアストーン混じりの土石流への対策
西日本全域で大きな被害をもたらした、2018年7月の豪雨災害。バックビルディングと呼ばれる、積乱雲が連続して発生する現象が豪雨をもたらし、山あいの表層を崩壊させました。それが土石流となって住宅地を襲ったのです。こうした豪雨災害のメカニズムを突き止め、効果的な予防策につなげたいと研究しています。今回の土石流で目立ったのが「コアストーン」。花崗岩が真砂土に風化する過程でできるもので、直径2~3m、重さ数トンにも及びます。コアストーンだけならゴツゴツしていて長い距離を転がる可能性は低いのですが、粒の小さな真砂土に混ざったことで斜面を転がりやすくなり、住宅街を直撃したのです。今後は、コアストーンを視野に置いた対策も求められるでしょう。
コアストーンの混ざった土石流は、広い範囲に被害をもたらします。この模型のように、山の中腹あたりにコアストーンを止める堤防やワイヤーネット、砂防ダムなどを設置することにより、住宅街まで到達するコアストーンや土石流をある程度抑えられます。
土木系女子が魅力を語る
土木の分野に興味を持ち、土木の現場で活躍したいと考える女子学生"ドボジョ"。土木系を志向しながら、自分にできるだろうか?と不安を抱える女子高生たちの様々な疑問に答えようと、女子学生がアドバイザーとなった相談コーナーが設けられました。同学科では今まで多くの女子学生が学び、ゼネコンや建設コンサルタントなどで活躍しています。ここに座る女子学生たちも、最初は不安もありました。「でも、学んでいくとどんどん興味が広がってきた」と自身の経験を語り、後輩になる(かもしれない)女子高生の背中を押していました。
これからは、橋やダムなどを新たにどんどん造る時代ではありません。大事なのは、どんなプランなら地域と環境に過剰な負荷をかけず、共生していけるかという発想です。「細やかな気配りのできる女性こそ、今後の土木業界には必要です」と、女子学生たちは自信を持って語っていました。
- 建築工学科
むき出しの岩肌をそのまま活用した"石の博物館"
香川県高松市にあり、源平合戦の古戦場としても知られる屋島。屋島の魅力をより多くの人に伝えられないか、と学生たちは研究テーマに設定しました。屋島の山頂には、硬い岩盤が表出した箇所があります。また香川県は、石の産出地としても有名。こうした背景を考慮し、石の文化を伝える"石の博物館"を構想したのです。特徴的なのは、木の柱によって床を高く設置し、床と大地(岩盤)の間に広く空けた点。床のない部分は岩盤がむき出しになっており、人々は廊下から直接、荒々しい自然の岩をのぞき込めます。自然の混沌の中に、規則正しく並んだ木のフレームが秩序を生み、訪れる度に違った表情を見せる空間となっています。
山肌から表れた岩盤をうまく利用し、木のフレームと融合させた"石の博物館"。屋島の特徴であり、香川県の代表的な産出物である石が醸し出す表情を楽しめるよう、工夫が施されています。
天井に腰掛け、山並みの眺望まで楽しめるトイレ
三角形を寄せ集めた、蓮の葉っぱのような屋根。その屋根を開けると、天井に腰掛けて風景に目をやる人の模型。これ、実はキャンプ場のトイレです。広島県は毎年、建築を学ぶ全国の学生から作品を募る「ひろしま建築学生チャレンジコンペ」を開催しています。このコンペの2017年のテーマが「広島県の西部に位置する三倉岳を望む、自然公園内トイレの設計」でした。そして提案されたこのトイレ。全77の応募作品の中で第2位(優秀賞)を獲得しました。特に評価されたのが「天井への登り口を作り、天井に腰掛けて三倉岳の眺望を楽しめるようにした」という発想。トイレでありながら展望台の機能も併せ持ち、自然を余すところなく楽しませようというアイデアの斬新さが、そこにはあります。
トイレの入口は3箇所に設けてあります。これは、テントサイト、炊事場、道路のいずれからもアクセスしやすいようにという配慮。三角形の組み合わせによる立体的な屋根にすることで、周囲に広がる山の起伏と馴染むようにしたのも工夫の一つです。
オープンキャンパス紹介の第1弾はここまで。
第2弾では、情報学部・環境学部・生命学部のプログラムをお伝えします。