金属と樹脂の異種接合研究で学会誌Best Author賞受賞~機械システム工学科
2021.06.03
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2021年4月、本学 工学部 機械システム工学科の日野実教授が、溶接学会のBest Author賞を受賞されました。学会誌に寄稿した日野教授の「金属―樹脂異材接合を実現する金属表面処理技術」という記事が、高く評価されたのです。
日野教授が携わる「金属・樹脂接合」とはどういう技術なのでしょう?どんな創意工夫が込められているのでしょうか。オンラインで取材しました。
日野実教授(工学部/機械システム工学科)
「素材の強度を上げながら軽量化する。この課題を克服しようと様々な産業分野、特に燃費改善でCO2を減らしたい自動車業界の研究者が努力しています。そこで注目されているのが、強度の高い金属と、成形性に優れた樹脂を接合した【マルチマテリアル】です」
と日野教授。教授は鉄鋼、アルミ、マグネシウムなどいろんな金属の表面に特殊な処理を施し、樹脂と接合する研究に長く取り組んできました。そして、接着性を高めながら金属の耐食性(サビにくさ)も向上させる手法を開発。この研究がBest Author賞に結びついたのです。
金属表面を処理することで、樹脂とくっつきます。試験片の左がアルミ合金、右がプラスチックです。
電子顕微鏡を使用し、処理した金属表面の状態をナノレベルで確認。
日野教授は【陽極酸化処理】という手法を用いて、アルミの表面処理を行いました。
「リン酸系の電解溶液の中にアルミ片を浸し、陽極(+極)につないで直流電気を流します。すると酸素イオンが陽極に集まり、アルミと反応して表面に皮膜を形成します。皮膜には100~200 nm(ナノメートル。1nm=10億分の1m)程度の孔が空いています。ここに樹脂が入り込んでくっつくのです」
せっかく皮膜と樹脂が接合しても、皮膜の下の金属が腐食すると外れてしまうかもしれません。そこで金属の耐食性を上げる必要があります。
「溶液を変えたり、電気分解の条件を変えてみても、うまくいかない。思いついたのが"1回でダメなら、2種類の電解溶液を使えばいい"ということです」
日野教授はリン酸系溶液で処理した後、硫酸アルマイトという溶液でもう1度、処理を実行。2度の陽極酸化処理で、接着性と耐食性を両立させました。この表面処理技術は企業と共同で特許を出願しています。
上の左が処理前、右が処理後。下はその模式図。金属表面を耐食性の高い皮膜が覆い、その上にトゲのような皮膜が形成されます。
日野教授の手法では、接合に接着剤を用いる必要がありません。
「接着剤なしでも、引き剥がそうとすると樹脂が壊れるほど強力にくっつきます。現在は、プラスチックの射出成形機を造るメーカーと一緒に、アルミと樹脂を接合させた部品を一括成型する研究に関わっています。接着工程が必要ないため、手間とコストを大幅に下げられそうです」
接合したアルミと樹脂の試験片を引張試験機にかけ、接合強度を測定。
試験機で引っ張った結果。樹脂が破壊されても、金属と樹脂の接合部分ははがれていません。
マルチマテリアルは、今後ますます発展すると日野教授は予測します。
「自動車の他にも飛行機・新幹線など、"軽量化"を重視する分野はたくさんある。それらの分野で、大いに活用されるでしょう」
マルチマテリアル化を推進し、社会・産業の未来に貢献するために。日野教授は精力的に研究を続けています。