春のオープンキャンパス同時開催
「TECH SESSION」イベントレポート
2024年3月20日、多くの来場者でにぎわった広島工業大学オープンキャンパス。当日は講義棟「Nexus21」4階の新施設「nexus for.(ネクサスフォー)」にスペシャルゲスト千葉秀憲氏を迎え、トークイベント「TECH SESSION」を同時開催しました。
千葉氏の講演、長坂康史学長との対談、同フロアの展示コンテンツをレポートします。
千葉秀憲氏 講演
「僕の学んできたクリエイティブプロデュース持論」
総合的なクリエイティブ開発力を強みに、幅広い領域のデザイン、ブランディング、マネジメントなどを手掛ける株式会社フロウプラトウ。取締役兼プロデューサーとして国内外の大規模プロジェクトに携わってきた千葉秀憲さんが、今日までを振り返り、独自のクリエイティブプロデュース論を語ります。
始まりは「試しにやってみよう!」
「フロウプラトウ」は2006年創立の「ライゾマティクス」から派生した会社で、僕は同社の創設メンバーです。同社は誰も着手していない領域で新しいことをやろう」というのが会社設立のきっかけで、アーティストのステージ演出や、オンラインファッションショーのプロデュースなど、多くのプロジェクトを世に出してきました。
外から見ると、テクニカルでかっこいいイメージかもしれません。でも、ものづくりの現場は意外に泥臭くて、いつも「試しにやってみよう」から始まるんです。例えば、フェンシングの軌跡を3次元で追う仕組み。AR合成のプロセスをリアルタイムに応用できないだろうか?からスタートして、およそ10年がかりでやっと成功しました。
自社プロジェクトで発表したところ反響が良くて、そこからミュージシャンとのコラボも実現。「やりたい」先行で始めたことが、結果的に仕事につながったんです。
クライアントと作り手をつなぐ役目
受注した案件に関しては、それをビジネスとして成功に導くことが自分の務めだと思っています。プロデューサーは、クライアントと制作チームをつなぐ真ん中の立場。お客さんの方にももちろん、「こんなものを作ってほしい」という要望がありますが、制作側のクリエイティブ能力は圧倒的です。だから「創ること」に関してはある程度、彼らに任せて優れたものを引き出してあげる。一方、クライアントには要件を整理して分かりやすく伝える。いろんな事情を踏まえながら、うまく調整するのがプロデューサーの人間力です。
プロデューサーは、クリエイターに最も寄り添える存在でもあります。その場その時に全力を尽くす作り手から、想像を超える体験が生まれる。そこに立ち会えることに、いつも胸が熱くなりますね。
プロジェクトを成功させてみんなを笑顔に
小中学生の頃は、15分以上人の話を聞けない子どもでした。でも、映画を見始めると2時間ずっと集中できたんです。僕が考える映画はアートの一部で、アートとは人間の可能性を探求する活動。そしてどんなアートにも、作り手のメッセージが込められている。そこにニーズを見い出すと、クリエイティブプロデューサーとしてすごくうれしいです。
この仕事の醍醐味は、手掛けたプロジェクトが成功して、関わったメンバーも世の中の人もみんな笑顔になること。「好きだな」「ステキだな」と感じたことを表現・発信するために行動して、社会まで豊かになるんだから、これ以上の感動はありません。皆さんも、自分が何を好きでそのためにどう動くべきかを考えて、今後の人生に生かしてほしい。そうすれば、僕の周りに面白いことをする仲間がもっと増えるんじゃないかな(笑)。
株式会社フロウプラトウ 取締役
千葉 秀憲 さん
1976年茨城県生まれ。東京理科大学 理学部卒。2006年、仲間と共にクリエイティブ集団「ライゾマティクス」を創設。国内外の大規模プロジェクトに取締役・プロデューサーとして従事する。2019年、同社で培った横断的なデザイン力、実装力、企業とのコラボ実績などを生かし、社会実装・還元を目指す関連会社「フロウプラトウ」を設立。
千葉氏×長坂学長トークセッション
前のめりに生きて、自分が進むべき道を見つけてほしい
失敗が前提でも、動かないと何も起こらない
- 長坂学長
- 先ほどの講演で、フェンシングの軌跡を追う仕組みを完成させるまで10年がかりだったと話されました。長期的なプロジェクトをやり切る力はどこから湧いてくるんですか。
- 千葉氏
- 10年先のことを考えて動くのはしんどいですよ。でもクリエイターたちは、トライアンドエラーで日々少しずつ前進します。その成長を見ていると「もうすぐ完成しそう」という期待が大きくなる。それで10年たったようなものです。失敗しても精度が上がれば大丈夫、成功したら楽しい未来につながりそう。これくらいの、ちょっと無責任な感覚も良かったのかもしれません。
- 長坂学長
- 失敗を恐れて挑戦しないという若者が目立ちます。千葉さんご自身は「失敗すること」をどんなふうに捉えていますか。
- 千葉氏
- いつも思うのは、「たとえ失敗することが前提でも、やらないと何も始まらない」ということです。成功を目指して失敗すると痛い思いをしますが、失敗すると思って失敗すると経験値が上がるだけです。結局、行動することが一番なんですね。無理だと思って諦めるよりも、スタートを切ってみる。僕たちもこれまでのプロジェクトで、一発成功のものなんてありません。ゴールはこうあるべき!と勝手に決めなくていいんです。
- 長坂学長
- 講演の中の「まずはやってみて考えよう」というお話とつながりますね。
- 千葉氏
- 先のことを考えて悩むよりも、日々ちょっとずつでも前に進んだ方が良いに決まっています。若い人たちには、1日の過ごし方の大事さを切に伝えたいです。
ものづくりには優れた仲間・場所という環境が重要
- 長坂学長
- 千葉さんは人と人をつないで、プロジェクトを進行していくという立場ですが、仕事をする上での環境面についてどうお考えですか。
- 千葉氏
- 職場のメンバーという環境で話すと、当社はすごく恵まれていますね。まずルールとして、誰かがアイデアを出した時、誰もその意見を否定しないんです。「面白そうだから挑戦しよう」と20~30人が同じ方向を向けるのは、珍しいことじゃないでしょうか。
- 長坂学長
- 「失敗しても責めない。経験を次に生かす」という考え方とセットですね。本学では学生同士が集まって語り合い、体験を共有できる場になればという思いから、この4階フロアを「nexus for.」としてリニューアルしました。技術開発において「集まる場」というハード面は、どのように影響しますか。
- 千葉氏
- 当社は良い縁があって、都心の真ん中に早い段階でみんなが集合できる制作拠点を置くことができました。メリットとして、試作スピードが格段にアップしましたし、だからこそ幅広い分野のチャレンジができたと思っています。広島工業大学の良さも同じですよね。この充実した環境は、今後のいろんな可能性につながると思います。
「つまらないことに気付く」という経験も成長に
- 長坂学長
- オープンキャンパスに来ている高校生に向けて、「こんなことをしておくといいですよ」というメッセージをお願いします。
- 千葉氏
- 僕自身のことを話すと、人生の前半はやらなくて後悔したことの方が多いんです。だから、興味があることは若いうちに何でもやっておいてほしい。その中で掘り下げたいことが見つかるかもしれないし、つまらないことに気付くかもしれない。その気付きも成長だと思います。前のめりに生きて、まず行動してください。仲間も自然に増えてくると思いますよ。
- 長坂学長
- 高校生は大学に入って学び、やがて社会に出ていきます。社会が求める人材について思われることは?
- 千葉氏
- 今は難しい時代ですよね。自分で考えて自分で動いて結果を出せる人はすごいですけど、雇う側としてはそういう人ばかりだと厳しい面もある(笑)。ただ、僕自身の考えとしては、周りの意見に惑わされずに、自分の信念を貫いて行動できる人が好きです。そんな人と一緒に仕事をしたいです。
逆に学長にお尋ねしてもいいですか? いろんな人に聞いているんですが、大学の役割をどんなふうにお考えですか。
- 長坂学長
- 大学は高校生と社会人の間の人間を育成する場所、学びの場を提供するところだと思っています。広島工業大学は工学系の大学ですから、学生はその分野の知識・スキルをしっかり身に付けて、将来に役立ててもらいたいです。今日の千葉さんのお話にもあった「取りあえず行動する」精神で、未来を切り開いていってほしいですね。
「nexus for.」で最先端テクノロジーに触れよう
2024年3月に公開されたばかりの新施設「nexus for.」。トークイベント会場の隣には3つの展示ブースが設けられ、高校生たちは興味深そうに各エリアの展示物を見学していました。
【建築エリア】
環境学部 建築デザイン学科
杉田 宗 准教授
「建築業界のデジタル革新」をテーマに、3DプリンターやBIM(ビルディング インフォメーション モデリング)を用いた制作物を展示。フロア一角には、杉田研究室と英国ラフバラー大学との国際建築ワークショップから生まれた「移動式茶室」を再現。和紙や糊などの和素材で日本らしさを表現した茶室は、2023年G7サミットの歓迎レセプションで使われました。
【環境エリア】
生命学部 食品生命科学科
杉山 峰崇 教授
生命科学分野だけでなく、発酵産業でも注目を集める「酵母」。広島工業大学は世界でも指折りの酵母リソース拠点として、収集・保存・提供に力を入れ、酵母研究業界を牽引しています。ブースには酵母の分子育種、酵母を用いた醸造、発酵生産などが分かるパネルやモニターを展示。顕微鏡の体験コーナーも設けられていました。
【情報エリア】
株式会社ビーライズ
広島に本社を置くビーライズは、メタバースの企画・開発や、XR(VR/AR/MR)技術を用いたコンテンツ制作などを展開。各種トレーニングや教育ツールなどの提案で、あらゆる業界の課題解決に貢献しています。フロアには職業トレーニング用VRソフトウェア「ジョブスタジオ」などを展示。VRの世界を楽しそうに体験する来場者が目立ちました。