建築工学科
川上 善嗣
教員紹介
研究紹介
川上 善嗣KAWAKAMI Yoshitsugu
工学部 建築工学科 教授
建物損傷から地域活性化、原生林管理まで。
幅広く「建築」をとらえる
PROLOGUE
川上先生の研究室を訪ねると、いろんなものがあってちょっとビックリします。ホワイトボードを見ると、難しそうな数式が書かれていたり、その脇には古いレジスターやバーコードスキャナが置かれていたり、少し目を移すと、原生林に関する調査資料や長靴があったり…。建築に関わる研究もある中で、「これは何に使うの?」と思わせるものがちょこちょこ並んでいるのです。「学生にできる内容で、学生自身がやりたいことをやらせていたら、広がってきました」と川上先生は笑います。
建築物の損傷程度をモデル化。早めのメンテナンスを促す
私はもともと、建築物の「構造ヘルスモニタリング」を研究しています。建物は長年使っていると、あちこち傷みます。それを軽微なうちに発見し、必要なメンテナンスを施そうというもので、今や大手IT企業がAIなどを使って実施しています。
建築専門の私たちが、大手IT企業と同じことをやっても意味はないと考えています。そこで学生たちと一緒に、建築物の損傷に関するモデルを学生が理解しやすい表計算ソフトを使って構築しています。表計算ソフトであれば、建築の学生にも馴染みのあるソフトで、確率や統計計算も可能で、簡単な機械学習にも取り組み始めました。将来建築の社会で働くと、IT企業と仕事をすることもあるでしょう。そのとき、情報系の話が全くわからないのは良くありません。AIや機械学習について、基本だけでも分かっていれば、役に立つはずです。
関連して、既存の建築物を対象に、損傷程度を予測するモデルも構築しています。大学近くの海上に建つ厳島神社の柱は、海虫に食われて穴が空きます。穴の数や空き具合から、柱が年間に何mm程度欠損するか、モデル化します。実際に現地調査を…となると大変ですが、見てきた範囲の現象をモデル化するなら、学生でも難しくありません。このように、自分に何ができるか、学生に探させることから始めています。
地元のマルシェのレジシステムも構築。これも「建築」の一環
地域活性化に関する活動にも取り組んでいます。最初の目的は、廿日市市玖島地区の防災・減災活動の支援でした。現地に何度も行く中で、地域の人々が週末にやっているマルシェ(産直市場)で、新しくレジスターを導入するという話を耳にしました。しかし週末のみのマルシェに、コストの高い本格的なレジシステムは必要ありません。そこで学生がバーコード管理によるレジシステムを構築することなり、農家さんを訪問し、出品情報を集め、それをもとにバーコードを作成し、出品管理や会計時にレジで使えるように整備しました。
建設会社の調達部門では、バーコードやQRコードを管理して必要な材料を揃え現場に届けるという仕事があります。建設コンサルタントや自治体の職員の仕事では、住民のアンケートを取るためQRコードを使う機会が増えています。この活動はその原理を学ぶことで就職後に役に立つかもしれません。
防災・減災マップやマルシェの打ち合わせで玖島に行った際、乾パンや毛布、簡易ベッドの数、避難時に支援の必要な人の動きや連絡先などの平常時の防災活動の調査も行っています。浸水や崖崩れの箇所を調べるだけが防災・減災支援ではありません。これらの減災を目的とした調査であれば学生にもできます。防災・減災マップに関してはGISで作成していますが、玖島地区ではマルシェの支援を通して、GISで扱える情報が多彩に揃ってきたので、今後はいろいろ活用できると思います。
原生林管理に役立つ現地調査も。さまざまな研究成果を地域に還元
島根県吉賀町にはコウヤマキの原生林があります。この原生林の管理に関わる現地調査も行っています。学生が現地の山間部に赴き、コウヤマキがどれくらい成長しているか実測します。木材になる前の原木について知っておくことも大事な学びです。
全く別のテーマとして、「プロの構造設計と学生の構造設計の違い」を分析する学生もいます。ハウスメーカーに実際の設計データを提供してもらい、データをもとに学生も設計。そして出来上がりを比較するのです。学生は自由に作りますが、プロはコストや、施工にかかる手順も計算しながら設計します。その違いが明確に出るので、学生にとっては大変勉強になります。
このように私のゼミでは、幅広い範囲のテーマを扱っています。共通するのは、学生が自主的にやりたい、学生でも形にできそうなものに取り組んでいること。玖島や吉賀町に足を運ぶ学生もいれば、ハウスメーカーに相談に行く学生もいるし、構造計算のソフトやGISに取り組む学生もいてバラエティーに富んでいますが、みんな楽しそうに研究を進めています。
今後も地域の人々や企業・自治体などとつながりながら、地域にさまざまな成果を還元していきたいと思います。