「臨床工学技士にしか果たせない役割がある」ことを深く実感した1ヶ月半~生体医工学科・臨床実習報告会
2019.10.31
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1ヶ月半の実習を終えた4年生が
後輩を前に、臨床実習体験について報告。
電気メス。AED。人工心肺。人工呼吸器...。TVの医療系ドラマなどでもおなじみの、最新の医療機器の操作や運用、保守管理を担う「臨床工学技士」
現代医療に医療機器は欠かせません。そんな中、医学と工学の知識を併せ持ち、チーム医療に貢献する臨床工学技士の重要性は増すばかりです。
本学の生命学部・生体医工学科には、臨床工学技士として医療現場で活躍したいと志す学生が大勢学んでいます。彼らは4年生になると、それぞれ病院に出向き、約1ヶ月半におよぶ臨床実習を経験します(※2020年入学生より、臨床実習は3年生から実施となります)
今年も多くの学生が、臨床現場へと出向きました。そして2019年9月、先生や同級生、後輩を前に実習で得た体験を発表する報告会が開催されました。技士の候補生たちは、先輩の臨床工学技士や医療チームの人々、患者さんとふれあいながら、何を感じ、学んだのでしょう。
9月に開催された臨床実習報告会の様子。次年度以降に参加する後輩のためにも、先輩として得た経験・知識を語るのは大切なことです。
「臨床現場では専門的な医療用語が飛び交います。実習生も知っているのが前提なので、詳しく説明してくれたりはしません。実習で戸惑わないよう、普段の授業をしっかり理解しておきましょう」と強調する小西佳奈さん。
自分からもっとくらいついて来るぐらいでないと
現場で失敗するぞ、と教えられた。
一本木廉さんが実習で訪ねたのは、山口県岩国市にある岩国医療センター。山口県東部の高度医療・救急医療の拠点であり、急性期の患者さんが多く集まる所です。そこで実習した一本木さんは、手術室内の業務もたくさん体験しました。
「人工心肺内で血液が固まらないよう、抗凝固薬のヘパリンを混ぜた生理食塩水を作ったり、出血を回収する回路を組み立てたり。サポート業務ではありますが、いろいろ携わりました」
学内の先輩や先生から「自分からどんどん動け」とアドバイスを受けていた一本木さん。積極的に技士に質問したり、「自分がやります」と申し出ることに努めていました。
「それでもリーダーである技士長さんから"もっと積極的に。くらいついてくるぐらいでないと、現場で失敗するぞ"と指摘されたんです。自分なりにはかなり前向きなつもりだったのですが、現場ではそれでも足りないのだと驚きました」
印象に残るのは、手術中のある出来事。
「医療機器の一つが急に動作不良を起こしたんです。そばで見学していた私は、自分のことのように"まずい"と焦りました。でも、先輩の技士さんは動じることもなく、すぐ正常な機器を運んできて、不調の機器と入れ替えていました。患者さんの体とつながる回路の入れ替えも、予期していたかのようにスムーズです。後で話を聞いてみると"事前にオペの流れ全般をイメージしている。全体がわかっていれば、個別のトラブルがあっても次にどう対処すべきか、判断しやすい"とのことでした」
経験を重ねたプロの判断力のすごさを、一本木さんは改めて感じたと言います。
「"臨床工学技士"という仕事を知ったのは高校3年の頃。この仕事に就きたいと考えるようになり、やはり工科系大学の方が機器の工学的な面について詳しく学べるだろうと考えて、本学科を選びました」と一本木廉さん。
人工呼吸器の使い方を説明する一本木さん。「医療機器が正常に動作するのは、患者さんにとって"当たり前"。だけど、その"当たり前"は、臨床工学技士の適切な操作と管理・保守が支えているものです」
技士の顔がこわばっていると
患者さんは余計に不安になってしまう。
小西佳奈さんは2つの病院で実習を行いました。1つは広島市南区の広島大学病院、もう1つは広島市佐伯区にある原田病院です。
「高度医療を担う広大病院では、救急車で運ばれる患者さんも、入院加療の方もおられます。多忙な中、技士さんはいろんな業務を並行して進めていました。その一方、実習生の指導もします。私など細かなミスばかりしていたのですが、怒ることなく"こうしてリカバリーすればいい"と丁寧に説明してもらいました。対応の幅の広さがすごいなと思いましたね」
「原田病院では主に、通院患者さんの人工透析を担当しました。患者さんと会話する時、私がすごく緊張していると"顔が固いよ"と先輩の技士さんに注意されました。患者さんにとって人工透析はしんどいので、技士の顔がこわばっていると、患者さんは余計につらくなってしまうのだそうです。先輩技士さんを観察すると、透析する患者さんと野球の話で盛り上がったりして、リラックスさせていることに気づきました」
患者さんを前向きにさせるため、コミュニケーション能力も大事だと、改めて実感したそうです。
「技士さんが見ているのは、目の前の患者さんだけではないんです。心電図が鳴り、他に動けるスタッフがいないと悟るとすぐ向かわれますし、同僚が困っているとサポートに入ったり。あらゆる方面に目を配り、一番に何をしないといけないか、優先順位をつけて行動されているんです。」
先輩技士の視野の広さと判断力に、驚きを隠せなかった小西さん。でもいつかは自分もそんな能力を身につけたいと、意欲を新たにしています。
「大学受験を意識し始めてから"臨床工学技士"を知り、人工心肺や透析装置などを扱うのは面白そうだと感じました。理数系科目への不安は多少ありましたが、広島工業大学はその面のサポートも万全と聞き、決断しました」と小西佳奈さん。
人工透析を行う患者さんの協力を得て、シャント(透析を行うため、患者の腕などに外科的に装着する回路)を触ったり、聴診器の音を聞かせてもらった小西さん。「"しっかりがんばって"患者さんに励ましてもらい、嬉しかったです」
2手も3手も先を読んで動く。
プロの技士の凄みに感動した。
新田晃己さんも2つの病院で実習を行いました。1つは広島大学病院、もう1つは広島市中区の広島赤十字・原爆病院です。
「広島大学病院は、他と比較にならないほど多くの手術が行われます。心臓外科・脳外科など難易度の高い手術も多く、技士さんも手分けしていろんな分野を担当されていました。そんな中、多くの手術に関わらせてもらいました。
原爆病院では、主に機器の保守・点検を担当。技士さんから"機器の誤作動が原因で医療ミスにつながった事例はたくさんあります。保守点検が十分なら、ミスは防げたかもしれない"と繰り返しうかがいました。私は輸液ポンプの保守点検や清掃を担当したのですが、絶対手は抜けない、と肝に銘じました」
大学の講義などを通じ、医療用語や機器操作のノウハウをある程度習得したつもりでした。しかし現場に入ってみると、説明についていくのがやっと。わからないことは何でもメモを取り、後で見返して調べたり、実習先の先輩に聞いて理解を深めた、と新田さんは語ります。
「広大病院で、心臓手術に立ち会った時のことです。指導役の技士さんが機器操作を行っていたのですが、先輩技士さんは、医師の指示が出る前からもう動く準備をしているんです。次はこういう操作が必要になる、ここの準備をしておこうと、2手も3手も先を読んで行動している。だから手術がスムーズだし、アクシデントがあっても予測の範囲内だから、柔軟に対処できる。これがプロの技士なんだ、と感動しました」
ポンプを動かし、スイッチを押すだけではない。先輩技士の行動から、新田さんは、臨床工学技士の"プロとしての姿勢"を感じ取りました。
「中学2年の頃、フィリピンを訪ねました。その地域では医療機器が不足し、多くの方が亡くなっていました。機器と技士が命を救うことに気づき、臨床工学技士をめざそうと思ったんです。広島工業大学は成績次第で学費免除などの支援体制が魅力でした」と新田晃己さん。
実習では、人工心肺装置にも度々触れたという新田さん。「本学科では、実際の装置を使って操作法を学ぶ"生体機能代行装置学"などの授業があります。そのおかげか、実習で各種の機器を目にしても、戸惑いはありませんでした」
コミュニケーション能力や視野の広さを持った
信頼される臨床工学技士になりたい。
1ヶ月半の研修を通し、現場のリアルを体験した学生たち。時に自分の未熟さを痛感しながらも、前向きに実習課題をこなし、臨床工学技士への思いをさらに深めました。
一本木さんは語ります。
「技術や知識の高さは当然として、患者さんに向き合い、コミュニケーションできる技士になりたいですね。"あの人がいるから、透析に行くのも楽しい"と患者さんに言ってもらえる。そして医療チームのメンバーからは"彼に任せれば治療がスムーズに進む"と信頼してもらえる。そんな技士をめざします」
また小西さんは言います。
「ここはできるけどここはできない、という好き嫌いは、臨床工学技士には許されません。得意であれ不得意であれ、どの業務も平均以上の成果を出せる。そんな"当たり前"のことができる技士でありたい。そしてキャリアを重ねるうち"当たり前"のラインが高くなっていけばいいのではないでしょうか」
新田さんは、このように決意を示します。
「患者さんは、病気に対して不安を抱いています。実習前からそれはわかっていたつもりですが、実際の患者さんやご家族と触れ合う中で、不安の大きさをより身近に感じました。この不安を払拭できる技士になりたいですね。そのためには、しっかり会話して信頼関係を築ける人間力が必要だと思います」
臨床工学技士をめざす多くの学生の指導にあたっている生体医工学科の新田和雄先生は、学生たちの着実な成長に手応えを覚えています。
「本学科には現場で使用される最新の医療機器が揃っており、臨床現場の経験が厚い先生も豊富です。また、工科系大学である本学には"工学"という確固たるベースがあります。臨床工学技士を養成するための環境が万全に整っているわけです。もちろん、実習先となる病院との信頼関係づくりにも余念がありません。
おかげで、実習先からは実習生に対していい評価をいただいています。周囲の期待に応えるため、さらに指導に力を入れていきたいと思います」
実習の中で、貴重な学びを得た学生たち。遠くない未来、彼らは医療現場に立って実力を発揮し、やがては地域医療の担い手となっていくでしょう。
最後になりましたが、未熟な学生たちを受け入れていただいた医療機関の方々、またご協力いただいた患者さん、及びご家族の方々には、心より御礼申し上げます。
「実習で多くの学生は"自分に何が足りないか"に気づきます。現場に出て多くの人に接する中、自分にどんな能力が不足しているのか、つくづく思い知らされるのです。その気づきこそ、次の成長を生み出す原動力となるでしょう」と新田和雄先生。
実習によって得た体験を活かし、理想の臨床工学技士に向かって前進したいと語る3人。彼らが指導役の先輩技士として実習生の前に立つ日も、やがて来るでしょう。