デジタルデータが地域活性化の原動力になる~産業データサイエンス研究会キックオフシンポジウム
2019.11.22
このニュースは、クローズされました
"データサイエンス"の本質を追求し
地域の発展のために活用する
モノがインターネットにつながる"IoT"化は、様々な方面で進んでいます。スマホ・パソコンは言うまでもなく、家電・自動車・産業機械など多彩な分野のモノがネットワークに接続されており、デジタルデータをリアルタイムに収集。デジタル世界に"ビッグデータ"を形成しています。
このビッグデータを新ビジネスに結びつけるには、データを適切に解析・判別・整理した上で、有意な関連性・法則性を導き出す"データサイエンス"が重要となります。AI(人工知能)が的確に機能するのも、データサイエンスをベースとした"機械学習"があってこそ。これからの産業や社会の発展に、データサイエンスは不可欠と言っていいでしょう。
そうした情勢を背景として、広島工業大学・IoT技術研究センターの主導により発足したのが【産業データサイエンス研究会】です。
そして10月1日、第1回のキックオフシンポジウムが開催されました。
当日は、データサイエンスを深め、地域産業の活性化・地域発展に寄与しようとする研究会の趣旨に関心を持った研究者・産業界の方々約200人が出席。講演やパネルディスカッションに聞き入っていました。
冒頭、本学の長坂康史学長は
「産業界には"データは貯まっていくが、活かし方がわからない"と悩む方々がおられます。一方、"思考を重ねた技術はあるが、現実のマーケットに適用する機会が乏しい"と戸惑う研究者も少なくありません。こうした場を契機に産官学が手を携えてデータサイエンスを推進し、課題を打破していきましょう」
と挨拶しました。
地域データサイエンス研究会のキックオフシンポジウムは、広島市中区中島町にある広島工業大学・広島校舎で行われました。
産業界・官公庁の方々や大学の研究者など、約200人が来場しました。
シンポジウムの冒頭、挨拶に立った広島工業大学・長坂学長。
新たな価値を想像し、社会課題を解決するため
データサイエンスの発展が不可欠
基調講演に登壇されたのは、産業技術総合研究所の関口智嗣理事です。
「従来、AIに取り組む研究者は、人間が知り得た法則や方程式などの知識を機械に集積して、人間と同等の思考を実現しようと考えていました。しかし今のAIは、全く異なります。膨大なデジタルデータを与え、そこから機械自身に関連性やらルールを見出させ、モデル化する。知識から結果を導くという"演繹"的な手法ではなく、結果(データ)から知識(モデル)を生み出す"帰納"的なやり方で構築されるのが、今のAIなのです」
と、昨今ブームとなっているAIの主流を説明した上で、関口氏はこう述べました。
「だからこそ、データサイエンスが重要になります。データサイエンスが適切に行われることで、AIの可能性はますます大きくなるでしょう」
関口氏は、データサイエンスやそれに基づくAIを、既存事業の延長ではなく、新分野の開拓に活用すべき、とも強調します。
「既存事業にAIを導入して効率化を図るのも大事ですが、技術はどれほど最先端であっても急速にコモディティー化(画一化)します。それより注力すべきなのは、新たな市場の開拓です。まず自社の抱える課題に目を向け、課題解決につながるデータの取得・解析方法を考える。データが取得できたら、機械学習の仕組みを作り、AIとして機能させる。そうやって新たな価値創造に向かってほしい」
データサイエンスやAIの活用によって社会的課題の解決にもつながる有望な分野として、関口氏はいくつかの候補を挙げられました。
「<材料設計>分野では、新素材・代替材料の探索・開発などへの活用が考えられます。<エネルギー>分野では、再生可能エネルギーの発展に寄与する気象予測・電力予測、分散電源の最適化など。<防災>分野では、地質調査による地震予測や火山活動予測、土石流検知などがありますね。他にも、人工衛星を利用した環境変化・人口動態の可視化などにも有効かもしれません。データサイエンスによってもたらされるAIの進化が、社会の発展に不可欠です」
とデータサイエンスに対する期待を示し、関口氏は約1時間の講演を終えました。
基調講演に登壇されたのは、産業技術総合研究所・理事の関口智嗣氏。研究者として、産総研ふるさとサポータとして、中国エリアの産業発展をお手伝いされています。
基調講演の演題は『データ駆動型社会における戦略と事例』。「今後、社会や産業の発展をにらむ上で、常に中心となるのがデジタルデータの存在」と氏は語ります。
「巨大かつ複雑なデータで構成される世の中を、単純明快な方程式で表すのは不可能。それよりデータ全体を見渡し、"これが起こったら次はこうなる"という具合に物事の関連性から未来を推測した方が確度は高い」と、今日のAIを形成する基本的な考え方を紹介する関口氏。
「競争の激しいレッドオーシャンではなく、ブルーオーシャン(競争のほとんどない、将来性の豊かな市場)への展開を図るには、データを中心に据えて事業を見直し、モデルを作らないといけません」と言う関口氏の言葉に、うなずきを持って耳を傾ける来場者の方々。
建設業界、自動車業界、第一次産業。
様々な分野で着実に進むIoT化。
二番目のプログラムは、パネルディスカッションです。
パネラーとして関口氏、長坂学長のほか、民間企業として事業の中でIoT化を推進する(株)荒谷建設コンサルタントの荒谷壽一会長と、本学IoT技術研究センターの濱﨑利彦センター長が加わりました。
4人の研究者・実務家・専門家が一堂に会し、パネルディスカッションがスタート。
最初に濱﨑センター長が、データサイエンスに関する事例を紹介。その一つが、ドイツにおける自動車ビジネスのIoT化。濱﨑センター長によると、
「ドイツでは、IoTによって自動車を利用する人々のデータを収集し、それを基に自動車をカスタマイズ。利用者のニーズに最適の車を造り出して販売する、という動きが具体化しています」
とのことです。
もう一つ、濱﨑センター長は第一次産業のIoT化について触れました。濱﨑ゼミでは、LPWA(広域低電力無線)の活用によって通信安定性を確保し、自然環境下で発生する膨大なデータを取り込んで、産業の発展に貢献するという試みが続けられています。
「現在は瀬戸内海を対象に、養殖業に不可欠の養分であるクロロフィル分布データをリアルタイムで取得するための実証実験を行っています。モデル化が実現すれば、世界中の多島海域で活用できる技術となるでしょう」
次に荒谷氏が、自身の所属する荒谷建設コンサルタントでのIT推進状況を説明しました。
「自動車にカメラと3Dスキャナを搭載して道路を走りながら周辺環境・施設を撮影、同時に3Dデータも取得できるMMS(モービルマッピングシステム)を導入しました。加えて、撮影データを基にAIで道路舗装の損傷を評価し、補修計画立案に役立てています。またドローンも積極的に活用しています。土砂災害地域でドローンを飛ばしてデータを取得。被災箇所の安全かつ迅速な特定が可能となりました」
他にも、測量に3D計測を取り入れ砂防設計のレベルアップを図ったり、3DCAD設計とVRの連動で建設物内部を"仮想的に視認できる"状態を作り、品質・安全性の向上につなげるなどの事例についても紹介。
「データサイエンスによって、防災など地域の安全に貢献するサービスを展開するのが自分たちの役目」
と荒谷氏は述べました。
「他の分野と比べて、海・山などの"自然環境のIoT化"は著しく遅れています。これを解決したい」と意気込む、広島工業大学・IoT技術研究センターの濱﨑センター長。
「建設業界ではようやく、測量から調査・設計・施工(管理)・維持・更新まで、一気通貫でITを活用する動きが始まったところ。これからです」と語る(株)荒谷建設コンサルタント・荒谷会長。
その後は4人のパネラーが、主にIT人材の育成についてディスカッションしました。
「同じIT分野でも、AIを作る人材と、AIを使えるようにする人材と、AIをビジネスに応用する人材は、それぞれ別のカテゴリーに属します。どういう領域で活躍してほしいか、目的を明確化しないといけません」
という関口氏の発言を受け、長坂学長も
「育成については、大学が最も責任を負う分野です。社会がどういった人材を求めているか理解するためには、大学が積極的に実社会と接点を持たなければなりません。そのためにも、こうした研究会は有効です」
と応じました。
最後に、来場者からの質問にパネラーが応答。
データサイエンスとは何か、データサイエンスによって何ができるのか。議論を深め、地域に貢献できる価値を創り出そうというそれぞれの意思を感じつつ、第1回のキックオフシンポジウムは盛会のうちに幕を閉じました。
「ひとくくりに"エンジニア"と言っても、目的が違うと身につけるスキルや育成の仕方も異なる。目的の明確化が大事」と口を揃える関口氏、長坂氏。
来場者からもいくつか質問がありました。それぞれ立場や属する業界は異なりますが、来場者の方々も一様にデータサイエンスに強い関心を示していることがわかります。
シンポジウム後の情報交換会では
多彩な立場の方々が意見・アイデアを交換
シンポジウム終了後、場所を移して情報交換会を開催。
乾杯の挨拶に立ったのはIoT技術研究センターの濱﨑センター長です。
「第1回の今日をスタートとして、データサイエンスへの理解を深め、これを基盤とするビジネスを発展させていきましょう」
これを合図としてドリンクと軽食を楽しみながら、参加者同士、ざっくばらんに交流を深めていました。
同研究会が進展するとともに、広島地域におけるデータサイエンス活用が推進されるでしょう。研究会から生まれる次の成果を、どうか楽しみにお待ち下さい。
末尾ながら、お忙しい中、研究会に足を運んでいた方々に心より御礼申し上げます。
濱﨑センター長は乾杯の挨拶の中で「産業データサイエンスのキーワードは"コネクテッド"。データを公共物としてとらえ、産官学や企業同士がつながる中で、新たな価値を生み出したい」と語りました。
ソフトドリンクやビールを片手に、情報を交換しあい、交流を深める輪がいくつも生まれていました。
「首都圏など大都市ではない、広島のような地方都市において"データサイエンスを活かそう"という動きがあるのは、大変有意義だと思う。地域のポテンシャルを発揮する、よい事例になることを期待したいですね」と関口氏。
来場者の一人としてシンポジウムを聞いていた、(株)なかやま牧場・システム担当の中村啓二氏。「生き物である牛の管理にデータサイエンスやAIを活用したいと考えています。研究会を通じて、そのヒントをつかみたい」
来場者として参加した、広島工業大学・情報工学科の4年生・河内洸貴さん。「事例紹介も豊富で、データサイエンスのことがよくわかったシンポジウムでした。私も研究者の立場で、いろんな活用法を考えていきたいと思います」
「告知期間があまりなかったにも関わらず、多くの人に集まってもらえて驚くほどでした。それだけデータサイエンスへの関心が高いのでしょう。大学の"知"と産業界のニーズ、それに官公庁の施策も融合して、着実な動きにしていきたい」と長坂学長。
研究会の幹事であり、シンポジウムの司会も務めた、広島工業大学・電子情報工学科の山田憲嗣教授。「データサイエンスは全学的に取り組んでいくテーマです。学部や領域の枠を超え、教員同士が協力しあって、社会に求められる人材を育成していきたい」
本学の河内浩志副学長が「データサイエンスにおいては、何より産学官の横連携が重要です。これからもしっかり協働していきましょう」と締めの挨拶。
十分に情報交換を行い、充実した表情の参加者のみなさん。次の研究会にも、奮ってご参加・ご協力ください。